雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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ニート

ニート

 サイン会に出向いてサインしてもらったはじめての本。本名ではなくペンネームの秋山真琴で書いてもらった。名前を書いてもらっている間に「偶然ですけれど絲山先生と同じ漢字がふたつも入ってますね」とスモールトークしようと思ったが、気後れしてしまって出来なかった。
 サイン会に来ていた客層は、年配の方が多かった。どちらかと言うと、ニートや引きこもりより、群像や新潮を読んでいそうな年代だった。その理由は、本書を読了後、自然に判明した。秋山の知人にニートや引きこもりと俗称される人間は多いが、その大半は日々をエロゲーに費やしたり、コミケで数万単位の金銭を使ってしまうような人間だ。2ちゃんねるに書き込み、毒のある言葉を吐き、クォリティの高い、一般人ならば夢想だにしないようなくだらないことに少ない情熱を使ってしまう。てっきりそういった人間が本書に描かれているのかと思った。全然、違った。
 本書で描かれているニートは、もっと静かで穏やかだ。文学少年や文学少女から派生し、セックスを知り、就職し、退職し、死にゆく老人のように余生に入る。短編集なので、全ての作品で前記のようなニートが描かれているわけではない。むしろこれは秋山の受けた印象なので、このようなニートが登場するわけではない。とにかく静かで穏やかで、殺伐としていないのだ。闘志と飢餓感を失った、透明な人格。だからだと思う、サイン会に十台二十台が来ていなかったのは。良くも悪くも、文学――であった。