雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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913『ナラタージュ』

ナラタージュ

ナラタージュ

 初島本理生。タイトルのナラタージュとは「映画などで、主人公が回想の形で、過去の出来事を物語ること」という意味とのこと。実際にプロローグでは結婚するふたりが描かれ、次の章から主人公の女性がまだ大学生のころに戻って物語が始まるのだが、途中で現在の視点が混じることも、「今にして思えば」「あのころは」というような無粋な表現もなく、物語が回想であることは読んでいる間、まったく思い出さなかった。
 原稿用紙にして740枚という分量があるらしいが、あまり長さは感じなかった。格別、軽いと言うわけではないが、村山由佳よりも少しだけ大人びている筆致が読ませてくれる。出会いや別れ、生き死にもあるにはあるが、露骨な表現が少ないので、激しくなく、妙にしっとりとした雰囲気が出ているのが印象深い。そのせいか、主人公の感情の揺れ動きの説得力があり不思議に共感してしまった。最後は悲しいと言うわけでも嬉しいと言うわけでもないのに、ちょっと涙ぐんでしまった。平坦なもの、普通なものを目指して書かれたのではないだろうか。「こう書けば泣いて喜ぶんだろ、お前ら」というような著者の笑みが見え隠れせず、実に楽しめた。面白かった。