雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

922『月への梯子』

月への梯子

月への梯子

 ああ、叶うことならば読み終えたくなかった。永遠に夢を見続けるように、この物語に浸っていたかったと、読み終えた後、何分か裏表紙をぼんやりと眺めながら思った。好きな作家は何人かいるけれど、秋山の樋口有介に対する想いは別格。春の陽だまりが持つ暖かな雰囲気には、逆らいようがない。
 傑作、と一言で称してしまうことは悔やまれる。大好きな作家による、本当に面白かった作品なので、とてもじゃないが冷静に、そして客観的になることなんて出来ない。以下、かんたんにあらすじを紹介しよう。序盤をややネタバレしてしまっているが。
 主人公はやや言い方は悪いけれど知的障害者で、真面目だけれど人に騙されやすいアパートの大家さん。彼は長年、幸せに暮らしていたつもりだけれど、あるとき殺人現場を目撃してしまい、その拍子に梯子から落ちて頭を打ってしまう。打ち所が悪かったのか良かったのか、彼の脳は急速に活性化し、彼は人並の、いや人並以上の頭を持ってしまうことになる。しかし彼がアパートに戻ったとき、そこには住人がひとりも残っていなかった。鋭い思考力を得た彼は調査を始める……。といった感じ。
 樋口有介を読んだのは、かなり久しぶりだが期待以上の面白さに涙が出た。『枯葉色グッドバイ』を積んでいるので、近くこれも読みたいと思う。