雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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930『深夜プラス1』

深夜プラス1 (講談社ルビー・ブックス)

深夜プラス1 (講談社ルビー・ブックス)

 英国推理作家協会賞受賞作。某氏のオススメで読んでみたのだが、ううむ、何とも言えない。いわゆる、由緒正しいハードボイルドなのだろうか。緻密に構築された世界観には惚れ惚れするし、巧妙に敷かれた伏線には思わず溜め息が出る。しかし、なあ。いかんせん長い。どうも秋山がこの手の小説に慣れていないのか、盛り上がるタイミングが掴めず、波に乗れなかったせいか、十二分に楽しむことができず、惰性で読んでしまったような気がする。けれど、時たま視界を制圧し、記憶に刻みこまなくては思わせられるような科白が飛び出てくるのだ。例えば……そうだな、終盤における主人公の独白を引用したいと思う。

〈一人の男の墓碑に、この男は一万二千フランのために死んだ、と記してもだれもあざ笑うものはいまい。承知の上でやったことだと思ってくれるはずだ。一万二千フランというのは計算することができる。これでは少なすぎると言って断れば受け取らなくてすむ。
 だが、カントンであるということは計算できない。計算ずくで後へ退けない。そのために、わずか一万二千フランのためとはとうてい考えられないようなことをする……〉

 ああ、読んだ瞬間、身体中に電撃が走るのを感じ、あまりの格好良さと覚悟の深さに打ちひしがれたのだが、ここだけを引用しても、どうしてここがいいのか全く説明できない。ううむ、残念極まりない。
 こういった小説は、今後も少しずつ読んでいきたいと思う。まだ自分の触れたことのないジャンルを読みたい。自分の知らないことを知りたい。
(なお、書影が出るのでこれにしたが、秋山が読んだのはハヤカワ文庫版)