雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

1031『壷中の天国』

壷中の天国 (角川文庫)

壷中の天国 (角川文庫)

 目次のところにわざわざ「家庭諧謔探偵小説」と銘打たれていて、さらにタイトルが『壷中の天国』。元ネタの壷中の天の逸話も作中で語られるし、登場人物の一部は歌野晶午戸梶圭太を足したような趣きで描かれていて、てっきり「この物語は実は壷の中の出来事だったんだよ!」「な、なんだってー」というトリックかと思ったら全然違っていた。
 ミッシング・リンクと動機には、やや首を捻らないでもないが、作中において充分、論理が補強されているので、特に問題はない。問題は伏線の回収に関して。恐らく、この小説の肝となっているのは、作中の登場人物全員が怪しく犯人っぽく描かれているが、その誰もが犯人ではないこと。それは、ばら撒かれた伏線から犯人の住んでいるエリアを絞ることができ、その範囲に登場人物が住んでいないことから導き出される。これは今までにない新しい推理で、本格味に溢れていると思うがしかし、逆に言ってしまえば、色々な登場人物を犯人っぽく描くのに使った伏線を放っておくことに他ならず、そのせいで探偵役および作者が伏線を、勝手に取捨選択しているように見えてしまうのだ。その点が非常に残念。