雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

1056『痾』

痾 (講談社文庫)

痾 (講談社文庫)

 思っていたよりずっと真っ当で、何だかすんなりと楽しめてしまい、かえって物足りない。
 本書の主人公は『夏と冬の奏鳴曲』と同じく如月烏有。時間的に和音島での事件の直後から物語が始まっているので、続編と言っていいかもしれない。けれど、前作との間には途方もない断絶があり、『夏と冬の奏鳴曲』の結末で明かされる驚天動地のトリックを凌駕する空前絶後のどんでん返しに対する補足や解説は一切ない。その無関心さは、いっそ心地よいぐらいだ。少しネタバレで語りたいので、以下反転。
 藤岡の過去を知ったときに震えが走った。もしかして、この編集部の人間は、全員が「あの青年」を追いかけたことがあるのではないだろうか。さらに放火犯の如月烏有と殺人犯の香山武男が、わぴ子に操られており、わぴ子が巫女神清孝に操られているという構造が分かったとき、当然、その巫女神清孝を和音が操っているのではないだろうかと想像した。いや、恐らくはそうだろう。そんな予感がする。そしてあの結末……。一体、このシリーズがどこへと転がり落ちていくのか。とても気になる。聞くところによると『あいにくの雨で』も『木製の王子』も、正当な続編とは言えないらしいし……果たして、続きは書かれるのだろうかと思いつつも、待ち遠しい。