雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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1060『鴉』

鴉 (幻冬舎文庫)

鴉 (幻冬舎文庫)

 代表作のひとつに数えられることの多い作品。メルカトル鮎が登場はするが舞台が京都ではないため、他のシリーズに取り込むよりかは、単発作品として位置づける方が自然。
 あまり感心しなかった。なるほど、確かに読者の意表を突くトリックが仕掛けられている。仕掛けられてはいる、のだがそれにはちょっとミスリードが多すぎたきらいがある。と言うか、非常に本格的な作品なのだ。麻耶雄嵩のことだから「その村の住人は人間ではなく、動物だった(だから鴉に襲われる)」であるとか、まあ、そういったぶっ飛んだトリックが来るのかと思いきや、多少、不自然ではあるもののミステリ的な読み方をすればそれなりに完成されている本格が形作られているのだ。しかし、本書を本格だとすれば、一部の謎を、現人神であるところの大鏡による奇跡という一言で済ませているのは大きな欠陥だし、色盲に関する遺伝や、新たな大鏡の選出の方法などを、解決編で述べないのもまた失敗なのではと思う。
 解決編以前と以後で、村のリアリティが段違いになっているのが残念。これでは『女王の百年密室』の方が上かな。