- 作者: 角田光代
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/07/08
- メディア: 文庫
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さて、以上の紹介は嘘偽りである。実際には京橋家は崩壊しており、包み隠さずという不文律こそあるものの、個々人がそれを破っており、しかし他の家族は破っていないだろうという根拠のない自信の上に生活を送っている。したがって登場人物はそれぞれ「自分だけが秘密を持っている/自分だけが家族のために頑張っている/自分だけが不幸せだ」と思って生きているのだが、読者の視点では全員が「そう」であるため、とてもとてもいびつな家族像をそこに見出すことになる。
とにかく人物が描けていると思った。純粋に上手いのだ。人はどうして自分の立場や立ち位置からでしか物事を見れないのだろう。どうして他人の身になって考えたり、案じたり、他人を知るために語り合おうとしないのだろうか。痛ましい。
余談。作中でホテル野猿は「のざる」とルビが振られているが、正確な読み方は「やえん」。秋山が通っている大学の近くにあるのでよく看板を見る。訪ねてみたい。506号室をこの目で見てみたい。