雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

1131『徹底抗戦!文士の森』

徹底抗戦!文士の森

徹底抗戦!文士の森

 1991年2月10日。中日新聞に某評論家による文芸誌にまつわるコラムが掲載された。要旨を紹介すると「文芸誌を読んでいるのは小説家・評論家・編集者のごく一部であり、一冊の文芸誌を部分的にでも目を通している読者は日本中に三百人ぐらいしかいないのではないか」「百部売れて当たり前」など、つまり文学を批判している記事である。本書の著者、笙野頼子は、このコラムに衝撃を受け、某評論家との論争を開始する。本書は十四年間に渡るその論争のてん末を描いたもので、主に彼女が論争中に書いた評論やインタビューなどから構成されている。
 実はこの論争を秋山は知らなかった。群像が妙な方向に向かっていることや、某評論家が雑誌から雑誌へと、まるで何者かから逃げるように連載の場を移していることは、なんとなく分かったが、そこに因果関係を見いだすには至っていなかった。なので、本書でことの次第が判明し納得すると同時に、胸がすくように感じた。しかし、まあ、それにしても理不尽な話だ。ここに書かれてあることが真実であるならば、笙野頼子は某評論家によって貶された文学を、たったひとりで守っていたようなものだ。自らをデビューさせてくれた出版社から追われてまでも。
 帯にある印象的なフレーズを引用したい。

批評はどこへ行った。
そのとき評論家は何をしていたのか。

 まったくだ。評論家はこのとき一体全体、何をしていたのか、と。けれども沈黙を守っていた評論家の気持ちも分からないでもない。本書に収録されている評論を読んでも、本書の装丁を見ても、本書の値段を見ても、笙野頼子はとにかく大上段な性格に見える。ちょっと与するには難しそうなのだ。損な生き方かもしれないが、それは同時に魅力でもあり、一読者からすれば喝采を送りたくなるほど格好いい人だ。本書を紹介してくれたなっちゃんid:natume_yo)に感謝を。もにょ姉(id:akikonomu)は未読でしたら、是非どうぞ。
感想リンク→夏目陽