雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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1183『パーク・ライフ』

パーク・ライフ (文春文庫)

パーク・ライフ (文春文庫)

「死んでからも生き続けるものがあります。それはあなたの意思です」と書かれた日本臓器移植ネットワークの広告に薄ら寒いものを感じた主人公は、背後の先輩社員に向かって「なんかぞっとしませんか?」と声をかけたのだが、その先輩社員は少し前の駅でもう電車を降りていて、そこに立っていたのは見知らぬ女性だった。主人公は冷や汗を流したが、女性はすぐに元から知り合いのふりをして相づちを打ってくれる。やがて電車を降りた主人公は、日比谷公園で女性と再会する――。
 第127回芥川賞受賞作。途中まではそのあまりの地味さに「これがどうして芥川賞?」と首を傾げていた。何故って、よくある日常のいっときを切り取ったような小説なのだ。部分部分に納得するものはあれど、これといった展開はなく、淡々と日常が進む。しかし、ある科白を読んで疑問が氷解した。

以前、「どうしてみんな公園に来るんでしょうね?」と近藤さんに尋ねたことがある。近藤さんは珍しく真剣に考えあぐねていたのだが、「ほっとするんじゃないのか」とあっさりと言ってのけた。捻りのない回答だったので、返事もしないで済まそうとすると、「ほら、公園って何もしなくても誰からも咎められないだろ。逆に勧誘とか演説とか、何かやろうとすると追い出されるんだよ」という。

 衝撃的な科白である。公園が何のために存在するのか、どうして人は公園を訪れるのか。今まで、考えもしなかった。何もしないことをするために行くだなんて。一度、本を閉じ、『パーク・ライフ』という題名を見て、確信した。これは中々に上手く作られた、素晴らしい小説であると。