薬指の標本 小川洋子 新潮社 1997-12 売り上げランキング : 3866 Amazonで詳しく見る by G-Tools asin:4101215219 |
非の打ち所のない、まごうことなき傑作だった。本書は『博士の愛した数式』で一躍、名を馳せた小川洋子による短編集だ(と言っても二編しか収録されていない)。裏表紙のあらすじには「恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇」とあるが、表題作の「薬指の標本」も、もう一作の「六角形の小部屋」も、恋愛というより、怪奇幻想にずっと近いだろう。標本された品物の数々、謎に包まれた標本技術室、旅する語り小部屋……このようにキーワードだけ抽出しても、幻想性に富んでいるのが瞭然だろう。これらが小川洋子の比類なき筆力で、克明に描き出されているのだ。繰り返すが、まごうことなき傑作だった。
ただ、もしかしたら読み手を選ぶ本かもしれない。作中に描かれている男性が、すこし現実離れしているのだ。ひとによっては鼻につくかもしれない。ご注意していただきたい。