雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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『薬指の標本』

薬指の標本薬指の標本
小川洋子

新潮社 1997-12
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 サイダーを製造する工場で、主人公はあるとき薬指の一部を失ってしまう。それ以降、サイダーを飲もうとすると、舌のうえを薬指の肉片が転がるような気がして、彼女は仕事をやめてしまう。新たな仕事を求めて、町をさまよい歩いていた彼女が見つけたのは、標本室の受付という仕事だ。大切なものを封じ込めておきたい……そんな、秘めやかな願いを持った依頼人たちが訪れる標本室に、彼女はゆっくりと絡めとられる……。
 非の打ち所のない、まごうことなき傑作だった。本書は『博士の愛した数式』で一躍、名を馳せた小川洋子による短編集だ(と言っても二編しか収録されていない)。裏表紙のあらすじには「恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇」とあるが、表題作の「薬指の標本」も、もう一作の「六角形の小部屋」も、恋愛というより、怪奇幻想にずっと近いだろう。標本された品物の数々、謎に包まれた標本技術室、旅する語り小部屋……このようにキーワードだけ抽出しても、幻想性に富んでいるのが瞭然だろう。これらが小川洋子の比類なき筆力で、克明に描き出されているのだ。繰り返すが、まごうことなき傑作だった。
 ただ、もしかしたら読み手を選ぶ本かもしれない。作中に描かれている男性が、すこし現実離れしているのだ。ひとによっては鼻につくかもしれない。ご注意していただきたい。