昨日、読み終えた清野静『時載りリンネ!』が最高に面白かったので、布教の意をこめて、作中に登場する書名と作家名をリストアップしてみました。ネタバレの可能性も考えられるので、途中から「続きを読む」のなかに隠していますが、未読の方にも一望していただければと思います。「へえ、こんな本が作中に登場するんだ面白そうー」と思っていただければ幸いです。
- 作者: 清野静,古夏からす
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/07
- メディア: 文庫
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ちなみに、その時の食事は、
僕 ヴェルヌの『神秘の島』
リンネ ウェブスターの『あしながおじさん』
だったと記憶している。
(22ページより)
ジュール・ヴェルヌ『神秘の島』1874年。フランスの冒険小説。
ジーン・ウェブスター『あしながおじさん』1912年。アメリカの児童文学。
僕はリンネが肩に提げていたカバンを降ろさせると、入り口脇のベンチで蓋を開けてみた。中には案の定、というべきか、薄い文庫本が一冊だけ入っている。
タイトルは夏目漱石の『夢十夜』
(24ページより)
僕はフロアの端にあったソファーに腰を下ろすと、ギボンの『ローマ帝国衰亡史』を一巻から順に読み漁っていくリンネの後ろ姿を眺めた。ま、字数の多そうな本だし、栄養摂取効率から言えば無難な選択だろう。
(26ページより)
今、王陽明の『伝習禄』を読んでいるし、その前は一九七九年刊行の『現行ドイツ法における農地転用論』を読んでいた。十日ほど前にリンネの部屋に入った時は『油圧系パワーステアリングの構造と特徴』なる本がベッドの枕元に転がっていた。
(28ページより)
王陽明『伝習録』。陽明学。
著者不明『現行ドイツ法における農地転用論』。清野静の創作?
著者不明『油圧系パワーステアリングの構造と特徴』。清野静の創作?
二人の肘の間に『新しい算数3・上』と書かれた教科書を置き、開く。解らないところはどうやらあまりのある割り算らしい。
(65ページより)
著者不明(小平邦彦? 杉山吉茂・飯高茂・伊藤説朗?)『新しい算数3・上』。教科書。
「……ふ、ふうん。くわしいね」
「うん。この間ママにお仕置きで書庫に入れられた時、『世界音楽辞典』を全巻読破したから」
(87ページより)
ジョージ・グローヴ『グローヴ音楽事典』? 辞典。
『ニューグローヴ世界音楽辞典』? 辞典。
僕がそう言うと、相手の挑発に乗ってうっかり本を賭けてしまったことを思い出したのだろう、たちまちリンネはママさんからトマス・アクィナスの全著作読破を命じられたような表情を浮かべた。
リンネは手にしていた『アンチ・オイディプス』を閉じると、僕を上目遣いで見た。
(120ページより)
フェリックス・ガタリ&ジル・ドゥルーズ『アンチ・オイディプス』。社会学。
ルウはそのまま立ち読みを続けた。やがて本を閉じるとひっくり返し、ちらりと値段を確認したが、その本を棚に戻す。続いて文芸コーナーに行くと、手近な本を一冊手に取って黙々と読み始める。さすがに時載りだけあって読むスピードはリンネと遜色ない。
タイトルはナボコフの『ロリータ』。
(152ページより)
ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ』1955年。パリの文学。
スペンサー、ランケ、ミシュレ、ベンサム、ミル、ブルクハルト、キルケゴール……リンネがこの一週間、水の他には何も摂らず、ベッドの上で胡坐をかいてひたすら乱読した西洋知性の粋が暴風雨のように彼女の四囲を舞い、塔内で時間は流れるのを止める。
(170ページより)
ハーバート・スペンサー。イギリスの哲学者、社会学者、倫理学者。
レオポルト・フォン・ランケ。ドイツの歴史家。
ジュール・ミシュレ。フランスの歴史家。
ジェレミ・ベンサム。イギリスの経済学者、哲学者、法学者。
ジョン・スチュアート・ミル? イギリスの哲学者、経済学者。
ジェームズ・ミル? イギリス歴史家、哲学者、経済学者。ジョン・スチュアート・ミルの父。
ヤーコプ・ブルクハルト。スイスの歴史家、文化史家。
セーレン・キェルケゴール。デンマークの哲学者。
「私、読むのは大嫌いだけど、でもやっぱり、本は大切にしたいと思うから」
粉塵にまみれたその本の表紙のタイトルはこう読めた。
『大工よ、屋根の梁を高く上げよ』
(177ページより)
J・D・サリンジャー『大工よ、屋根の梁を高く上げよ』。
ルウの几帳面な性格を示すように本はきちんとジャンルごとに区分けされ、背を向けて整然と並んでいる。ポール・オースター、スチュアート・ダイベック、レイモンド・カーヴァー、リチャード・ブローティガン、カート・ヴォネガット Jr.……。タイトルを見ているだけでこの子の好きな作家の一端が知れる。
(187ページより)
ポール・オースター。アメリカの小説家。
スチュアート・ダイベック。アメリカの小説家。
レイモンド・カーヴァー。アメリカの小説家。
チャード・ブローティガン。アメリカの小説家。
カート・ヴォネガット。アメリカの小説家。
「ほら見て。ここに時砕きのことについて少し書いてあるわ。この本は第二帝政末期に実際にパリで時砕きに会ったという日本人の回想録。『其ノ姿、恰モ時ヲ砕クガ如シ』……何だかよくわからないわね。それからこっちは十七世紀頃の文献ね。なになに、『後期スコラ神学派内における時砕きの影響及びその存在形式に対する形而上学的考察』だって。こっちはあくまで時砕きをテクストとして捉え、聖書間の矛盾点や論点を形而上学的視座から止揚しようとする試みらしいわ」
(192ページより)
著者不明『其ノ姿、恰モ時ヲ砕クガ如シ』。清野静の創作。
著者不明『後期スコラ神学派内における時砕きの影響及びその存在形式に対する形而上学的考察』。清野静の創作。
「なんか、騙されているような気がしてきたわ」
と、読書用の眼鏡を掛けメルヴィルの『白鯨』を読みつつリンネがぼやいた。当然のことながら、リンネのカバンの中にストックを補充するに足る本が入っているはずもなく、リンネはルウの持ってきた本をそっくりそのまま借り受けることになったのだ。目の前にルウ好みのアメリカ文学を大量に積み上げられ、リンネはしきりに文句を言ったが、背に腹は換えられない。
(283ページより)
ハーマン・メルヴィル『白鯨』1851年。アメリカの文学。
──この時、何故リンネがコヘレトの『伝道の書』を暗唱したのかはよくわからない。後に僕はリンネに訊ねてみたが、彼女はこの時のことをよく憶えていなかった。どうもひとりでに口を突いて出てきたらしいが、それらの言葉がそのまま『時の旋法』に記されていた可能性もあり、この点からGは『時の旋法』の正体はイクリージアスティーズ(七十人訳の旧約聖書)ではないかという推論を立てている。
(308ページより)
『旧約聖書』。
リンネの弟、箕作ねはんはとても元気だ。リンネんちに遊びに行くと、決まって今読んでいる本を声に出して読んでくれる。ちなみに今読んでいるのは、オルコットの『若草物語』だ。
(328ページより)
ルイーザ・メイ・オルコット『若草物語』1868年。アメリカの自伝的小説。
あとがき
「わくわくするような冒険がしてみたい!」
とはこの物語の主人公である女の子の言葉ですが、「わくわくするような物語を書いてみたい!」とは僕の長年の願いでもありました。どこまでそれが実現できたかはわかりませんが、この『時載りリンネ!』という作品を慎んで読者のご高覧に供します。
(330ページより)
清野静『時載りリンネ! 1 はじまりの本』2007年。第11回スニーカー大賞、奨励賞受賞作。
グーグル先生とWikipediaの中の人にお世話になりました。
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