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キセン『LUNA, Mad Maria in the Wrong World』


LUNA, Mad Maria in the Wrong World
オンライン文芸マガジン『回廊』第12号所収


作者:キセン
絵師:遥彼方
分量:原稿用紙35枚
発行日:2007年8月15日
発行元:文芸スタジオ回廊

 瑠奈と僕は彼氏彼女の関係にあった。いや、正確には恋愛関係にあるという設定で、僕たちは会話していた。僕が彼氏だったらこう話しかけるだろうと思いながら話しかけ、それに対して瑠奈は彼女だったらこう答えるだろうと返事する。しかし、その関係が崩れたのは、瑠奈の不可解な発言からだった「あたしは、人類の抹殺を目論んでいる〈奴ら〉の征服を阻止するために八十七回目の転生でこの地球に降り立った、〈月の聖女〉──ルナティック・マリアなのよ」
「世界の終わり」特集に寄せられた1編。『回廊』では奇妙な味を持ち、奇想に満ちた短編を発表することで知られるキセンさんの最新作。本作品においては従来ほどSFやファンタジィに傾倒した設定は見られず、むしろ現実世界に〈奴ら〉と戦う〈月の聖女〉という(意図的な)陳腐さを持つファンタジィを持ってきたように思う。特筆したいのは、著者の本領が発揮されている終盤。まさに怒涛の展開という言葉が相応しいだろう、いったい何が本当で何が嘘なのか、完全に翻弄されてしまった。最後の一行も皮肉が効いていて面白い。またひとつ傑作が生まれてしまったと言っても過言ではないだろう。