ポプラ社が発信している、毎日どこかが更新されるWebマガジン『ポプラビーチ』。そのコーナのひとつに、週刊てのひら怪談というのがあります。今のところ第49回まで続いているこのコーナですが、第1回から第37回までは『てのひら怪談』に掲載された作家が、それぞれ「渾身の一作」として編集部に送ったものから構成され、第38回から第49回までは「西荻シリーズ」と称して、西荻てのひら怪談に投稿されたものから構成されています。現在は『てのひら怪談2』に掲載された作家による「渾身の一作」を、年明けからパート3にして疾風怒濤篇として毎週更新できるように準備を進めているようです。
疾風怒濤篇の前祝、というわけでもないのですが、渾身の一作パート1に相当する、第1回から第24回までの感想を書きました。例の如くネタバレに対する配慮は、あまりしていません。後、著者名とタイトルは、てのひらのうらに掲載されていたリストをそのまま利用させていただきました。ありがとうございました*1。
長いので、続きを読むのなかに入れておきますね。
- 作者: 加門七海,東雅夫,福澤徹三
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2007/02
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勝山海百合『とりひき』
素敵です。前半は謎の女の人や、緑の黴が生えているイチゴのショートケーキなどが印象的で、グロい作品で気持ちが悪いなあと思ったりもしたのですが、最後の4行がたいへん心地よいですね。主人公から祖母への、そして祖母から主人公へのほんわかとあたたかい愛情が伝わってきますね。週刊てのひら怪談という企画の先鋒に相応しい、とても良い作品でした。
黒史郎『地獄を見たいか』
これは怖いですね。最後まで読んで唖然として、すぐに読み直しましたが、さっぱり分かりません。地獄を見せてくれた祖父はいったい何者なのか? しみじみと謎めく、しかし良い作品ですね。ともすれば不完全燃焼になりかねない投げっぷりでもあるのですが、『とりひき』と同じく、祖父から主人公への愛情が伝わってくるので、まあ、いいかなと納得してしまうのです。ふしぎなパワーです。
我妻俊樹『亡者線』
ほほう。電車の如く列を成す亡者たちの群れから、生けるものを守るための踏切。その場の光景が、実に鮮烈にイメージできました。さすがの文章力だなあと思う一方、その説明だけに尽きてしまっているのが勿体ないなと感じました。亡者線という突飛な幻想を、高い文章力でもって読者に読ませているにも関わらず、そこから物語が生まれていないのが残念極まりないです。
不狼児『階段の途中』
好みの問題かもしれませんが、前半だけで良かったなと思いました。階段の途中に謎の女の子がいるという内は、リアリティを感じることが出来ましたが、脈絡なく語り手が階段に取り込まれ、そしてそこから脱出したというのは嘘くさく感じました。もう少し経緯をはっきりさせてくれれば、たとえば女の子と入れ替わってしまう瞬間を、もっと詳細に書いてくれれば納得できたように思います。
夢乃鳥子『末期』
これは素晴らしいですね。最後の三行を読んだ瞬間、思わず絶句しました。そう、正直に言って、序盤は凡庸だと感じました。誰々が泣いている、誰々が泣いている、と類型的な描写が続いて、どうせ語り手は死んだか死にそうかのどっちかで、臨死体験を描いたものなんだろうと斜に構えて読みました。が、その姿勢が油断を生み、ラストの三行はまさに不意打ちを食らったかのように目が覚めました。いやあ、素晴らしかったです。
田辺青蛙『できるかな』
ははは、これはひどい。いやあ、笑いました。きれいなジャーマン・スープレックスを見せてくれるのかと思いきや「な、投げたー! 投げっぱなしです!」と実況も思わず立ち上がってしまうような、見事な超展開でした。終盤まで、わりと堅実な筆致だったので、ありがちだけれど安心感のある結末だろうと思っていたのですよね。まさか、こんな意表を突く落ちが待っているとは思いもしませんでした。
立花腑楽『野良獅子』
なんだかラブリーな作品ですね。群れからはぐれた野良獅子という時点でドジっ子だなあと思わせておいて、ほんとうにドジっ子なところが愛らしくて仕方がありません。それに「ちょっくら噛んでくれや」と頭を突き出してしまう主人公も、素っ頓狂でいい感じですね。怖い反面、ほのぼのとした可愛らしさもあって、これがいわゆる「こわかわいい」という代物か、と思った次第です。
クジラマク『家賃滞納者CO』
これは、ちょっと今ひとつでした。酷い有様になっているアパート、コンクリートの塊で覆われている女の頭……目を引く奇想はあるのですが、なんとなく平山夢明の『東京伝説』に代表されるサイコ系に通じるものがあるような気がして、だったら平山夢明の方が上手く仕上げそうと思ってしまいました。と言うか、申し訳ないですが、サイコ系は苦手なので平山夢明以上の力量でも、ちょっと受け付けなかったかなと……。
朝宮運河『家族肖像』
むむむ、これは判断に迷う作品ですね。しっとりとした、セピア色の良い怪談と捉えることもできます。でも、その一方で「だから何?」と思わず聞いてしまうような、物足りなさもあります。とは言え、浜辺に打ち上げられたティーテーブルと一式という光景は、思わず瞠目してしまうような幻想性も秘めています。やはり物語していないのが、ちょっと残念です。
江崎来人『されどわれらが日々だった』
む、これは! 残念ながらお手上げです。白土三平もつげ義春も一応、読んではいますが、この空気を肌で感じることが出来るほどに、自分は当時を知りません。スピーディな文体は非常に好みですし、突拍子のない展開も好みなのですが、いかんせん背景知識を持っていないので、正確に楽しめているかどうか分かりません。秋山よりも上の年代のひとからすると、激烈に面白いのかもしれませんね……。
木村小鳥『整列』
これは中々いいですね。ともすれば「だから何?」に陥ってしまいそうなギリギリなラインにあるのですが、そこで上手く踏みとどまっているように思います。何度か読み返してみたのですが、どうしてこの作品に魅力を覚えるのか、よく分かりません。主人公と妙ちゃん間の友情がいいような気がしますが、それとは別種の魅力もあるような。よく分からないけれど、何かいい。そんな作品ですね。
岩里藁人『あわてもの』
これはそそっかしい! そそっかしいと言うより、天然に近いですね。天然の祖母! なんて魅力的な存在でしょう。悲しいのだけれど、楽しい。不謹慎かもしれないけれど、笑ってしまいました。いや、だって、もう二行目でさらりと紹介される逸話から、「34」に秘められた謎まで、もうすべてが最高に面白かったのですから。良かったです。
池田和尋『聞こえていますか?』
うーむ、これはまたキッチュな……。不条理で、救いがなく、暴力だけが残る怪談は、申し訳ないですが苦手です……。中盤まではわりと好みだったのですが、うーむ。
六条靖子『白い人』
いやー、これも困るなあ。怖気たつ、実に気色の悪い、嫌な怪談ですね。まったく、ひとに怪異を押し付ける、この女性の迷惑千万なことと言ったら! あまり得意ではないですけれど、これは物語として完成されていますし、わりと読ませてくれたので面白かったです。後味はよくないし、生理的にもちょっと苦手ですけどね。
ヒモロギヒロシ『笹首』
ははは、キッチュな作品が続いた後に、こういう気が抜ける作品が来るといいですね。“笹の才蔵”を今まで知らなかった秋山は、作中で登場人物が心配しているように、なにがエキサイトするのかさっぱり分かりませんでしたが、面白い雰囲気は伝わってきました。そして最後の三行がまた脱力していいですね。このKという男、なにも学習してないですね!(笑
小栗四海『ラヴィニアの子』
これはちょっと分かりませんでした。概ね、面白く読むことが出来たのですが、最後の一行で「ん?」と首を傾げ、すぐにタイトルにもなっている「ラヴィニア」をググってみたのですが、今ひとつ意味が分からなく不完全燃焼です。結局、これはどういう作品なのでしょう? 自らの読解能力不足を悔やむことしきりです。
夢乃鳥子『糠漬け』
お、これはいいですね! 最初は「あー、また、そんな食べちゃって。絶対よくなることが起こるよう」と思っていたら、案の定、河童が登場して、これは尻子玉フラグかなあと思っていたら、予想の斜め上をゆく結末で、思わず拍手喝采でした。いやあ、これは良い怪談ですね。素晴らしいです。愛嬌があって、ひょうきんで、ちょっと捻ったラストが最高に素敵です。良かったです。
グリーンドルフィン『腕の記憶』
ん、ん? ちょっと、よく分かりませんでした。つまり、前にも屋根に登ろうとした少年がいて、落ちて怪我をするか死んでしまったことを家が覚えていて、同じ過ちを繰り返さないために主人公を、早々に突き落とした……と言うことなのかしらん。そうだとしても、ちょっと物足りない感じですね。もう一歩、踏み込んでもらいたかったです。
白ひびき『星降る夜に』
ははは、これはいいですね。と言うか、もう猫が出てくるだけで、秋山は満足なのですよ。化け猫だろうと猫又だろうと、猫は可愛らしいじゃないですか。「うぇ〜」「何だぁ〜?」「だったりして♪」といった脱力する文章も、良い味を発揮してしますし、猫との相乗効果でたいへん良い作品に仕上がっていますね。堪能させていただきました。
雨川アメ『とり憑かれた』
今ひとつですね(ばっさり)。いや、申し訳ないですが、そうとしか言いようがありません。800字どころかその半分の400字も使っていないような、短くて斬れ味のある作品は大好きですが、この作品のは斬れ味があると言うより、単に凡庸なだけだと思いました。
君島彗是『スコープの空』
うーむ、やはり君島彗是は天才なのではなかろうか。もう何と言うか、ありとあらゆる要素が完璧に完璧に合致し、有機的に繋がることで奇跡の一瞬を切り抜いているような、まさしくスコープから覗くことのできる世界のような光景でした。や、秋山自身、もう何を言っているかよく分かりませんが、それぐらい素晴らしいということです。堪能させていただきました。
勝山海百合『ななかまど』
これもまた幻想的な良い作品ですね。君島彗是はどことなく洋風なハイカラさがありますけれど、勝山海百合は純和風のそれですね。語り手の正体が明かされた中盤で、一気に光り輝くように面白くなって、そのまま最後まですっと読みきってしまいました。いやあ、面白かった面白かった。タイトルも素敵ですし、堪能させていただきました。
酒月茗『ボトボト』
わお、いいですね! ボトボトってなにー? と抜群の牽引力で以って、ぐいぐいと読ませてくれました。声の描写を迷うくだりもまた素晴らしいですね。結局、謎は明かされたのか? 物語しているのか? すべてが投げ出されてしまっているのですが、不満はまったくありませんでした。読者の想像に任せるという、まさに怪談の真髄が遺憾なく発揮されている、たいへん良い作品だったと思います。
樋口摩琴『生兵法』
ううむ、ふしぎなものですね。作品の在り方、それ自体は酒月さんの『ボトボト』に非常に近しいと思います。怪異を見せ、後の判断は読者の手にゆだねるというかたちは。しかし、どうしてこんなにも不完全燃焼を覚えるのでしょうか、最後の一行まで読んで、思わず「で?」と聞いてしまいそうになりました。同じような傾向の作品なのに、こうも読後の感想が違うのは好みの問題なのでしょうか。『ボトボト』は駄目だけど『生兵法』は面白いというひともいそうですね。
不狼児『うぐいす餡パン』
むむむ、むむむむむ。これは判断に迷う作品ですね。朴訥で味わいのある少し怖い素敵な怪談と読み取ることも可能ですが、なんとなく物足りなかったです。1は割り合い好みで面白く読めたのですが、2と3が少しキッチュで、なんだかなという感じでした。申し訳ないです。
神森繁『鬼の捨て子』
うーむ。これも申し訳ないですが、ちょっと納得いかないですね。中盤までは「どうなるのだろう? どうなるのだろう?」と気になって仕方がなかったのですが、なんだか最後で適当な理由がでっち上げられてしまったように思います。これだったらラスト三行は、まだない方が良かったのではないだろうか……なんて思ってしまいました。
斜斤『同調』
これは……好みです! とても好みです。寝ている彼女の半開きの口、いつも清潔にしているはずが妙に汚い。もう、どうなってしまうのかと身を乗り出して、貪るように読んでしまいました。落ちもふしぎな余韻を残す味わい深いもので、奇妙な怖さと心地よさを湛えていました。良い作品ですね。堪能させていただきました。
立花腑楽『闇喰む女』
エロいなー、というのが読後第一の感想。序盤はいくつかの風景を中点で以って羅列していて、少し読みにくさを感じたのですが、中盤から魅惑的な淫靡さが漂ってきて溶けてしまいそうでした。闇を飲み込んだときの描写や、ラスト一行が特に輝いていて、いやあ、上手いですね。こういう作品を書けるようになりたいです。羨ましい限り。
矢内りんご『弁天池にて』
ん、ん? 実話怪談を蒐集している人間の逸話、なのでしょうか? どうも文章との相性が悪かったようで、なんとなく文字が頭を素通りしてしまいました。何度か読み返してみたのですが、やはり、どうにもピンと来ませんでした。申し訳ありません。
黒史郎『あひるの夜』
おおっとー! 危ない危ない。これは良い怪談ですね。と言うか、嫌らしい怪談ですね。これと言って取り上げるところのない、凡庸な作品と見せかけておいてラスト二行で見事に手のひらを返されました。一気に鳥肌がたって、うひーと思いながら再読してみると、言葉の端々に伏線が仕掛けられていて、実に巧妙でずるいです。いやあ、恐かったです。
沢井良太『姉や』
申し訳ございません、最後まできっちり読むことができず、終盤はほとんど流し読みでした。改行の一切されていない作品は、ちょっとディスプレイで読むには適していませんね。読点もなんだか少なく、文章のリズムが肌に合わないような気もして、読んでいくうちに目が痛くなってきてしまい流し読みに切り替えてしまいました。もう少し見せ方を工夫してくれていれば、良かったと思います。
平金魚『朋有り、遠方より来たる。』
ほうほう、これはなかなか良いですね。正直なところ、物足りませんし、味気ない作品だと思わないでもないのですが、文章の雰囲気が、なんだかとっても好みです。タイトルも素敵ですし、何度も読み返してしまう魅力を持っているように思います。好きです、こういう文章。
クジラマク『鎖の家』
傑作、ではないでしょうか。もうすべての段落に読みどころがある、これぞまさに過不足のない、素晴らしい怪談であるように思います。とにかく、ありとあらゆる要素が最高に素敵ですね。鎖、一人でやっている、火事、白い糸、揺れる鎖──そういった単体でも魅力的な要素が、お互いに連結し、有機的に繋がっているように感じました。たいへん素晴らしかったです。
林不木『先輩の死』
良いですね。場景描写の合い間に、テープの音声をクロスカッティングするという手法が極めて技巧的で、鼻につかないと言ったら嘘になりますが、それでもとても効果的に雰囲気を演出していたように思います。ただ、この手法を用いている故か、シーンがぶつ切りになってしまい、どうしても一気に滑るように読めないのが残念だと思いました。もう少し洗練されていれば、とんでもない傑作に化けていたように思います。
田辺青蛙『雨の日の帰宅』
これは素晴らしい、実に素晴らしい、大傑作ですね! 感動しました。淡々とした語り、グロテスクであるのに兄と妹の愛情を覚えてしまう描写、もう全てが、全てが、素晴らしいですね、これは。感動しました。もっとずっとこの世界観に浸っていたいと思いました。いやあ、申し訳ないですが、この気持ちを言葉で表現できません。とにかく素晴らしい作品だと思いました。
朱雀門出『文鳥』
え、ええええ! 衝撃のラスト一行ですね。思わずほんとうに声を上げてしまいました。百人の読者がいて、九十九人はこの結末を予期しえないでしょう。「なんだいい話系か」と身を椅子に預けながら読んでいたのですが、もう最後の一文には目を疑いました、思わず身を乗り出してしまいましたよ。いやあ、驚きました。良い怪談ですね。
黒田広一郎『夢で会いましょう』
お、いい話じゃないですかー。こういう話は大好きです。ちょっと奇妙な味を見せておいて、夢が舞台となって、この結末。心地よいですね、安心して読める、良い怪談です。大好きです。正直、傷痕が消えてしまうのは、ちょっと違うのではないか? と思わないでもないですが、まあ、良いです。救いのある話は大好きです。良かったです。
粟根のりこ『ヤァな夢』
だから何? と思わずばっさり切ってしまいたくなる作品でした。申し訳ないですが、最初から最後まで、よくある話だなあとしか思いませんでした。
貫井輝『シミュラクラ』
ははは。シミュラクラというタイトルからして、面白そうなものを仕掛けてくるなと予期していたら、まさにシミュラクラ現象が出てきて、わーい! という気持ちで読み進めたところ、きれいに落としてくれていて大満足です。怖いのだけれど、どこか面白くて笑ってしまう。良い怪談ですね。堪能させていただきました
我妻俊樹『女神の順番』
あ、うーん。申し訳ないですが、この手の作品は、ちょっと受け付けません。すみません。
伊予葉山『蓋』
むむむ。蓋って結局なんなのでしょう? よく分かりませんでしたが、よく分からないなりに、この怪談は良い怪談だと肌で理解しました。あまりこの手の怪奇現象に詳しくないのですが、ビルの真下に黒い穴が空いていると言うのは、なにかの比喩なのでしょうか? 説明されたけれど理解できなかったというもどかしさはありますが、謎の牽引力も女の魅力も良かったので、不満はありません。
暮木椎哉『冬の足音』
ふうむ。展開自体は非常に好みですし、結末も悪くなかったと思います。にも関わらず、今ひとつという思いを打ち消せないのは、文章が肌に合わなかったか、もう一歩、踏み込んでもらいたかったか。実際、この落ちにするのであれば、いっそラスト五行を削ってしまったほうが斬れ味が増すと思うのですよね。個人の趣味の問題かもしれませんが。
痛田三『閉じ込められて』
ふふふ、回廊が誇る超短編部門員の痛田さんの作品です。痛田さんの作品は、おそらく他の誰よりも読みなれていますからね、辛口の感想を書いて差し上げようと思ったら……だめでした! 参りました、面白いです! だって前半だけでも面白いのに、ラスト五行のどんでん返しでさらに面白くなるのですよう。いやあ、もう困りますよ。ずるいなあ。
高橋史絵『夢に見るは美しき君の屍』
ううむ、何故ふつうに小説ではないのでしょう。小説のかたちをしていても、充分に面白く仕上げることができたと思うのですが、こういう形式にしたことが気になって仕方がありませんでした。申し訳ありません。
不狼児『涙の初恋』
これはまさに超短編のそれとしか言いようがないように思いました。長さと言い、斬れ味と言い、800字掌編というより、超短編を書いているときの不狼児さんの作品だなあ、と。でも、この奇想は好きです。ウィンク、パチンというカタカナも良い効果を発揮していますし、タイトルも何となく悲しくて良いですね。
立花腑楽『斜視』
これは端整で、よくまとまった堅実な怪談ですね。一行目で「お」と警戒させておいて、じわじわと真綿で締め上げるように読者の逃げ場をなくしていって、追い詰めるように物語を構築しているなと感じました。だって、もうこんな風な結末を持ってこられると「いい話だ」と感動せざるをえないではないですか。ずるいなあ、もう。
田辺青蛙『塩の小箱』
再読して理解できました。「鬼になりそこなった女」とは何者か? そもそも鬼になるとは一体? と興味深い謎で物語を牽引しつつ、非日常に紛れ込んでしまったような日常の場景描写で畳み掛ける。手練の仕事だなあと思わず感嘆しました。最後の一行は、最初に読んだときは難解で、すぐには理解できませんでしたが、再読して理解でき、じわじわと怖くなりました。
不狼児『宮本武蔵』
むう。これには完敗です。何度か読み返してみましたが、中盤からの展開がいっこうに理解できず、さっぱり分かりません。お手上げです。
総評
以上、渾身の一作パート1の全作に感想を書いてみました。
『てのひら怪談2』のときは通しで読んでから、一作ずつ再読しながら感想を書いたのですが、今回はディスプレイで読むと言うこともあり、いちいちページを行ったり来たりするのが面倒だったので、読んでは感想を書き、読んでは感想を書きと、基本的に各作品は一回しか読んでいません。
パート2と西荻シリーズは明日と明後日に読もうと思っているのですが、てのひら怪談の奥深さを思い知るばかりです。秋山は書くことより読むことの方が圧倒的に好きなのですが、作品をひとつ読むたびに自分の趣味や好みを細かく知ることができて楽しいです。後、もしかしたらですが、読むことによって書く技術も上がるかもしれませんね。たとえば無目的に書いていると、つい「だから何?」系の作品に陥ってしまうことが往々にしてあるのですが、多くの作品を読むことでその過ちを回避することができるように思います。気のせいかもしれませんが。
*1:第2回の我妻俊樹が吾妻俊樹になっていたこと、この場を借りて報告させていただきます。