ポプラ社が発信している、毎日どこかが更新されるWebマガジン『ポプラビーチ』。そのコーナのひとつに、週刊てのひら怪談というのがあります。今のところ第49回まで続いているこのコーナですが、第1回から第37回までは『てのひら怪談』に掲載された作家が、それぞれ「渾身の一作」として編集部に送ったものから構成され、第38回から第49回までは「西荻シリーズ」と称して、西荻てのひら怪談に投稿されたものから構成されています。現在は『てのひら怪談2』に掲載された作家による「渾身の一作」を、年明けからパート3にして疾風怒濤篇として毎週更新できるように準備を進めているようです。ここまで一昨日のコピペです、手抜きエントリですみません。
疾風怒濤篇の前祝、というわけでもないのですが、特別篇にして西荻シリーズに相当する、第38回から第49回までの感想を書きました。例の如くネタバレに対する配慮は、あまりしていません。後、著者名とタイトルは、てのひらのうらに掲載されていたリストをそのまま利用させていただきました。。
長いので、続きを読むのなかに入れておきますね。

- 作者: 加門七海,東雅夫,福澤徹三
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岩里藁人『西荻窪からの手招き』
おおっ、これは素晴らしいです。一個の怪談としての完成度もさることながら、番外編として西荻てのひら怪談のイベント告知ページに掲載されるのも納得の遊び心! 秋山は特に「静脈認証システム」と「S藤さん」に爆笑でした。それに……今、気がつきましたがタイトルがまた良いですね。ここまで手にこだわったてのひら怪談は、初めて読みました。
夢乃鳥子『幽霊見物』
うわーん。出だしの三行で読めていた結末ですとも。こんな見え見えの落ちにはきっとしないだろうなと思いつつ、それとも真っ向勝負なのかなと思いながら読み進めましたが、正々堂々の真っ向勝負でした。なれば、感動しないわけにはいかないでしょう。しかし、東雅夫も残酷なひとですね。西荻シリーズの初っ端に、こんな泣きの一作を持ってくるなんて。これでは期待が高まらないわけがありません。
一双『逢う魔が地』
む、これは、いわゆる楽屋落ちというものですね! ホラー作家で「見える人」と言えば、加門七海で間違いないでしょう。そして「特撮物のフィギュアを右脇に抱え」ていそうな「Hさん」は東雅夫のことでしょう。と、ここまで考えて満足してしまいましたが、この作品、ネタを分からないひとにとっては何が何だかまったく分からない、酷くつまらない怪談でしょうね。まあ、秋山は面白かったから問題ありませんが。
平金魚『西荻はどこですか?』
せ、先生……難易度が高すぎます! 歴史上の人物が登場する点において怪談と言えるかもしれませんし、西荻窪ゆかりの人物が登場する点において西荻作品として素晴らしいかもしれませんが、徹頭徹尾、理解できませんでした! 日本史赤点ですみませんでしたっ!
不狼児『案内する』
恐らくてのひら怪談のなかで、いちばん再読しているのがこの作品です。西荻てのひら怪談の会場で数度読み返し、帰宅してからも何度か読み返し、今日また読みました。超短編で鍛えた不狼児の真髄が発揮されている、レベルの高い作品だなとは思いますが、これと言って好みではありません。けれど、ひとを惹きつけて止まないパワーを秘めていると思います。つい、読み返してしまうのです。
ヒモロギヒロシ『西荻に快速は停まったか』
うっわあ、こわぁ〜。「休日に快速が止まらない」というのはイベントでも話題になったネタで、あ、これがそうだなと思いながら読みました。とは言え、細かい事情までは知らなかったので「へえ」と面白く読むことができました。が、説明に紙幅を割きすぎてしまっているせいで、今ひとつ物語が弱いですね。ラスト一行でなんとか持ちこたえてはいますが、そこでさらにもう一歩踏み込んでもらいたかったなと思います。
我妻俊樹『ロープ』
上手すぎる……! 理解した瞬間、一瞬で全身鳥肌でした。週間てのひらの法則に則って、これも「休日に快速が止まらない」ネタか、と嘆息しながら読んだのですが、まさかこんなにも深く斬り返してくるとは思いもしませんでした。いやあ、素晴らしかったです。堪能させていただきました。
朱雀門出『西荻てのひら怪談』
これは何度、読んでも笑えますね。脱力系の極みではないでしょうか。地の文を可能な限り排除して、会話だけで進めようという意欲もまた素敵です。特にラスト四行が最高に素晴らしいですね。文字通り、西荻てのひら怪談という狙い済ましたタイトルもきれいに決まっていますしね。良かったです。
君島彗是『旅猫奇――または六月十日に寄せる散文詩』
ああ、いいですね。うっとりします。物語は不在のようですが、この繊細な筆致にて描きだされる、類稀なる世界観を読むことができるだけで、もう至福です。読んでいて思ったのですが、君島彗是はどことなく山尾悠子に似ていますね。シュルレアリスムなところとか。堪能させていただきました。
黒史郎『炭の隠居』
お、しんみりといいですね。黒史郎が「クロさん」を書くのか! と、序盤はギャグなのかなといぶかしみつつ読み進めたのですが、次第に切なさがにじみはじめ、最後は涙を誘われました。改めてタイトルを見返してみると、猫の隠居ではなく、炭の隠居、こういう捻りがまたいいですね。良かったです。
矢内りんご『松庵の狐』
ううむ。どうにもこうにも今ひとつです。今ひとつと言うか、今ふたつと言うか……何がだめって、祠に記されている説明書きはなんなのでしょう。これをどうにか物語させるのが怪談の真髄でしょうに、それを説明文で済ませるとは! なんだかな、と思いましたが読み返してみたら、全体の文章は淡い感じで悪くないですね。惜しい作品でした。
松本楽志『夕啼』
ううむ、がくしさんの作品だからと期待値を高く設定したために今ひとつと感じたのか、それともそんなのは関係なく今ひとつだったのでしょうか。ひとつのアイデアを引き伸ばしすぎてしまい、薄くなってしまったように思うのです。しっとりと味わい深く、読み終えてからも余韻が残る良い怪談、と言えないこともないですが、どうにもしっくり来ませんでした。
中根優作『変な客』
お、これはいいですねー。M書店は実在するのだろうか、変な客ってどんな客だろうと色々なことを考えながら読んだところ、最後までくるんとまとめられたように思います。よい落ちですね。ただ、ひとつ不満を述べるなら、変なのは古書店でも客でもなく、その本なのではないでしょうか……?
山本ゆうじ『本々の神』
中盤までは激烈に面白かったです。奇妙な書店、下に行けば行くほど見つかる凄い本。行ってみたいなあ、楽しそうな書店だなあと思いながら読み進めたのですが、終盤の展開はちょっと今ひとつだったように思います。ラスト一文もなんだか狙いすぎていて、返ってステレオタイプに読めますし。もう少し幻想方向に踏み込んでくれていれば良かったと思います。
伊藤寛『赤いランプ』
ううむ、これはまたキッチュな……終盤まではわりと楽しく読めたのですが、祖母が叫んだシーンで一気に嫌な感じが膨れあがりました。忘れてしまっていると言うのも、何だか片付いていない感じがして、どうにも苦手です。申し訳ありません。
長島槇子『朝顔』
う、うわーん……。思わず涙を誘われるたいへん良い怪談ですね。茶道の師匠とあなたが同一人物なのかなと一瞬ではありますが、首を傾げてしまいました。ラスト一文に「師匠のためではなく」という言葉があれば、分かりやすさが増していたかなと思います。それにしても心地よいリズム、心温まるテンポ、素晴らしかったです。堪能させていただきました。
添田健一『象を探して』
そえさんの作品。これも不狼児さんのと同じく何度も読み返しました。ファンタジカルな西荻を舞台に、少年と少女のちょっとした冒険。淡い感じが程よく演出されていて、何とも言えず心地よいです。特に象の口調がいいですよね「ではゆくぞ。しっかりつかまっていてくれ」このあたりがかなり好きです。良かったです。
中村平信斎『空飛ぶピンクの象』
いやいや、いい話じゃないですか。終盤はもう少し踏み込んで欲しかったかなと欲張りたくなりますが、中盤までの疾走感がとにかく素晴らしいので満足です。「なんと、ど派手なピンクの色をした象だったのである!」なんていいですね。思わず笑ってしまいました。それにしてもピンクの象がどのような姿をしているのか、気になって仕方がありません。
春乃蒼『忍』
むむむ、悪くない話だと思います。しかし誤字が……戦いたはおそらく慄いたでしょうし、意義は異議だと思われます。良い怪談だとは思うのですが、800字という短さのなかに誤字が散見されると、作者は自分で読み返して、書き込もうと励んだのだろうかと首を傾げてしまいます。惜しい作品だと思います。
高橋史絵『古井戸』
ほほう、これは中々……いいですね。堅実でしっかりと書かれた文章だなあと思いながら読み進めていって、終盤の主人公が気を失ってしまうところで「うむ」と思わず頷きました。様々な感情が去来する、心に染み入る怪談ですね。素晴らしかったです。堪能させていただきました。
猟奇句会『西荻窪怪奇十三区』
分かりませんでした(ばっさり)。ええと、それぞれ「西」「荻」「窪」を句に盛り込んだというのは分かりますが、うーん、だから何? と。俳句を愛でる心が足りなかったようです。申し訳ありません。
田辺青蛙『をぎをぎ』
ふうむ、これは……どうにも物足りませんね。展開自体は好みですし、白い荻が部屋中に描かれているという場景も実に魅力的です。しかし、この結末はあまり力不足「だから何?」と問わずにはいられません。もう少し主人公と知人の繋がりが描かれていたり、もしくは部屋のなかの描写が幻想的だったら良かったかなと思います。
夢乃鳥子『紫紺の着物』
いやいやいや! この後の展開が気になって仕方がありません。独り身の状態で前世の妻が憑依した着物を入手するのは問題ないですよね? でも、現世の妻が隣で寝ているのに、前世の妻の抱擁を受け入れてしまうというのはどうなんですか! これは倫理観によって分かれるところでしょうが、秋山はちょっと……でした。
料理男『紛れ込む』
ははは、いいですね。開始四行である程度、ネタが割れてしまうとは言え、司会者=東雅夫の科白が飛び出るたびに、なんだか面白おかしい気分になります。秋山はどれだけ東雅夫が好きなんだと思いつつ、楽しく読むことが出来ました。が、最後の二行は余計だったんじゃないかなと少し思わないでもないです。
多麻乃美須々『西荻南界隈怪』
ううむ、これは……いや、ラスト六行までは最高に面白かったです。飲み屋の雰囲気も出ていましたし、お酒や豚足がとっても美味しそうでした。秋山もこの店に行きたいなあと思ったぐらいです。でも、ラスト六行で「あれ?」と思い、次いでちょっとキッチュだなと感じつつ、この結末は別にいらなかったんじゃないかなあと首を傾げてしまいました。好みのよるのかもしれませんが、秋山は店の描写だけで面白く読めました。
君島彗是『黄金の宵』
自分の無知を呪わずにはいられません。いい話になりそうな気配を感じ取り、もう自分から感動しにいくつもりで読み進めたのですが「カルヴァドスの会」と出てきて「へ」と思いました。調べてみると、カルヴァドスとは林檎のブランデーであり、その会はこけし屋にも関係があるようなのですが、よくは分かりません。カルヴァドスの会に馴染みがある読者にとっては、最高の作品なのかもしれませんが、秋山は受けとることが出来ませんでした。残念……。
総評
以上、西荻シリーズの全作に感想を書いてみました。
入賞作はイベントで既読でしたし、この頃から週刊てのひら怪談をチェックするようになったので、既読の作品も多かったです。今回、改めて読み直したわけですが、傑作! と拍手喝采したくなるほどに素晴らしい作品は見受けられませんでした。理由としてはやはり背景知識の無さと、共通言語の少なさでしょうか。秋山の西荻に関する知識は、ネット上で得たものと、イベント当日に触れたものだけですので、休日に止まらない快速やピンクの象と言われましても、どうしてもピンと来ず、充分に楽しむことができなかったように思います。
何はともあれ、渾身の一作パート3/疾風怒濤篇までに週刊てのひら怪談を読み通すことができて良かったです。クトゥルー神話は本になってしまうようなので除外するとして、稲生モノノケと吸血鬼のふたつは、西荻シリーズのようにイノモケシリーズや吸血鬼シリーズとして、ポプラビーチで読みたいですね。