『ef - a tale of melodies.』を観ました。
相変わらずのネタバレ満載で参ります。
いや、素晴らしかったですね。
ef - a tale of melodies. 1 [Blu-ray]
- 発売日: 2008/12/26
- メディア: Blu-ray
1期においては、新藤千尋の保護者でしかなかった火村夕の語りから入り、広野紘パートの脇役であった羽山ミズキが麻生蓮治の家を訪ねていたり、音羽がオーストラリアと日本の両方にあることが明かされたり、広野凪が美術室で全裸だったり……とにかく、スタートダッシュに力が入っていたように感じました。
また、1期では、広野紘、宮村みやこ、新藤景のパートと、麻生蓮治と新藤千尋のパートと、ほぼ2つのパートが独立していましたが、2期においては羽山ミズキと久瀬修一のパートと、火村夕、雨宮優子、雨宮明良、久瀬修一、広野凪のパートは密接に関係しています。と言うか、時系列的に過去と現在を、同時に進行させるという手法自体が面白く、特に第5話でしたね、過去編において火村夕と雨宮優子が親しくなり始めたところで、現代編で広野凪が羽山ミズキに対し、久瀬修一の恋人は私だという言葉には、かなりの説得力がありました(広野紘、宮村みやこ、新藤景、堤京介の関係性も脳裏にありましたしね)。
物語の構造もさることながら、単体の物語としても非常に面白かったですね。
天才ヴァイオリニスト久瀬修一が直面する大病と、そんな彼に恋をする羽山ミズキの物語は、とにかく結末が気になりました。寿命が残り僅かな人間に対し、どう向き合うべきなのか、何を与えられ、彼が死んだ後はどうするのか……? それらの問いに対して『ef』が、どのような解答を用意しているのか、純粋に気になったりもしました。しかし「果たし状」からの展開は、胸を突かれましたね。これ、圧倒的に羽山ミズキが主人公で久瀬修一がヒロインですよね。もう羽山ミズキが最強すぎて、彼女が必殺の「好きだから」で、何もかもを粉砕して勝利していくところは喝采でした。
もう片方の、火村夕と雨宮優子の物語も劇的でしたね。と言うか、雨宮明良が大好きです。運命の第6話、OPに一切の「人間」が存在しないという回において告白される雨宮優子の秘密。そこからのナイフ、雨宮邸への襲撃、漂う紫煙、狂気、行き詰まりの絶望、覚悟、反撃、敗北……もう、完璧でした。こういう流れで、他の作品を引き合いを出すのはあれですが、07th Expansion『ひぐらしのなく頃に』の北条沙都子や桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の海野藻屑、TOPCAT『果てしなく青い、この空の下で…。』八車文乃を思い出したりしました。
まあ、でも、ほんとうに劇的なのは、その後ですよね。無計画な逃避行からの独立、そこに掛かる雨宮明良の魔手。夜、帰宅しない火村夕を探して走り回った雨宮優子が、しかし煙草をくゆらす雨宮明良と出遭ってしまうのは、悪夢の如きすれ違いでしたね(巡り合わせの悪さは1期でも、度々、演出されていましたね。こういった要素から『ef』はすれ違いの物語であるとも思います)。ですが、その後に繰り広げられる、2回目の対峙、妹の顔、狂気、放火、自死からの幸せなふたり暮らし。なんて理想的な展開でしょうか。ほんとうに幸せそうなふたりが見ていて辛いです。だって、10年後の2009年、ドイツで音羽市プロジェクトに関わる火村夕の隣に雨宮優子はいないのですから……!
オープニングの素晴らしさに関しても言及せざるを得ないですね。
元々、秋山が『ef』という作品を知ったのは、ルパン三世をモチーフに『ef』のOPを再現してみたという動画を、ニコニコ動画で見たときです。そのときは、センスがあるけれど、やや意味不明に過ぎるなあという印象だったのですが、回を追うごとに、少しずつ色が加わったり、映像に変化が生まれる演出に、ずっと興味を抱き続けていました。
実際に目の当たりにすると、事前に感じていた以上に出来が良いなあと驚きました。第1話では白黒なのが、第3話では色が加わり、第6話ではモノトーンに戻るどころか色が消え、第11話でまた色が戻ったり。ヴァイオリンの種類が変わったり。第9話までは雨宮明良なのが、その後は火村夕を経て雨宮優子になったり。瞬きを我慢したり。かつて雨宮優子に手を差し伸べられた羽山ミズキが、今度は雨宮優子の手を引っ張ったり、火村夕がそこに駆けつけて3人で並んだり。ナイフ、ギター、髪留めの紐、ヴァイオリンの弦、腕時計、絵筆、紙飛行機といったガジェットもいいですね。物語が進んでいるという感触があります。
最後まで見て感じたのは『ef』は人間賛歌の物語だったということです。
人間が、人間のまま様々な事件にぶつかって、喜怒哀楽を経て、そして結果を肯定する。
考えてみれば1期もそうでした。宮村みやこがテレフォンボックスで広野紘に対して別れを告げたとき、間違いなく彼女は、すべてに対して絶望していました。もう誰も信用できず、最後だと思った広野紘の気持ちも新藤景を向いているし、ここから先、ひとりで生きていくしかないと思っていたでしょう。物語上は「この街から出ていく」という表現でしたが、もう少し踏み込んで考えてみると、これが自死を選んだ人間の遺言と思えなくもないです。しかし、そんな彼女を、自転車で音羽中を駆け回った広野紘が救った……!
「何故?」「何故?」「何故?」やがて死にゆく自分は、もう誰とも関わってはいけない。精算しなければならない。──という妄念に抱かれた久瀬修一が、やってきた羽山ミズキに対して残酷とも言える問いを投げかけたのは、仕方ないことでもあったように思います。それは拒絶であると同時に、しかし救いの手が欲しいという表明でもありました。羽山ミズキが去った後、発作に襲われ、薬に縋りつく彼は、まさに命乞いをしていました。冒頭にも書きましたが、そんな彼に「好きだから」というシンプルかつストレートな理由で、彼の問いを受け止め、許容し、承認していく羽山ミズキの最強っぷりと言うか、天使っぷりと言うかは完全に人間賛歌が擁する「肯定」の力に他なりません。
火村夕と雨宮優子の物語に関して言及する前に、もう少し羽山ミズキについて。
羽山ミズキの記憶はどうなっているのでしょうか? 火村夕に対し、雨宮優子のことを「知らないひと」と称したり、改めて自己紹介したり、雨宮優子のことは覚えていても、火村夕のことは忘れてしまったのでしょうか。確かに雨宮優子は同じ女性ですし、より自分に優しくしてくれましたし、記憶に深く残っていてもふしぎではありません。しかし、音羽駅にて新藤千尋と再会したときに羽山ミズキは、すぐに彼女のことを思い出しましたし、その記憶力は高そうです。名前が未来(みき)からミズキに変わっていることも含めて、彼女の闇は、もう少し深そうです……(と思いましたが、もしかして彼女は、あの日、久瀬修一に会ったことも忘れてる? だとしたら、雨宮優子の死が重すぎて、あのあたりの記憶がのきなみ失われている可能性も? でも、だとすると頭の左側で髪を結び続けている理由は一体……)。
さて、いよいよ、火村夕と雨宮優子に関してですが、正直、驚きました。まさか、雨宮優子が、ほんとうに死んでいて、ほんとうに天使になっているとは……! でも、殺す必要はあったんでしょうか? 植物人間になっていて意識不明だったけれど、偶然、この年のクリスマスに目が覚めたとかでもいいと思います。それこそ奇跡(火村夕の持論「この世に奇跡なんて無い。あるのは偶然と必然、そして誰が何をするかだけ」が覆る瞬間)のように。
ご都合主義であろうが、予定調和であろうが、やはり頑張った人間は、最後には絶対に報われないと駄目だと思うのです。そう、平たく言うと、ハッピーエンド至上主義です。だから、屋上で、別れを告げる雨宮優子の隣に立って、火村夕の表情が目まぐるしく変わるところは、ほんとうに辛かったですし、マフラーがふわりと落ちるところでは涙がこぼれました。
まあ、でも、そんな、おとぎばなしのような素敵な別れがあっただけでも良かったのかもしれません。
好意的解釈をすれば、あの再会は、神様の用意してくれた、試合のロスタイムのようなものでしょう。最期に充分な会話ができなかったふたりが、きちんとお別れするための、とても幸福で夢のような時間……。
ええ。
素晴らしいアニメでした。
計12時間、人生において触れることができて良かったです。改めて、本作を自分に勧めてくれたひとに感謝します。
アニメ版と原作『ef - a fairy tale of the two.』は、演出には多くの違いがあるでしょうが、物語として大筋に違いはないと聞いています。どちらかと言うとファンディスク『天使の日曜日-ef Pleasurable Box-』の方が気になっています。特に「アナザーストーリー」と銘打たれ、あの運命の日、雨宮優子がクリスマスを無事に過ごしていたifの世界と、かつての震災で雨宮明良は妹を失わず、火村夕は広野凪と仲を深めるifの世界が気になります。……と思いながら調べていたら、ブルーレイ再生環境必須という文字を発見して唖然。ゲームはDVDで、おまけにブルーレイでアニメでもついてるのかしら……? もし、ゲームを遊ぶのにもブルーレイが必要なら、ちょっとハードルが高いなあ……。
では、こんなところで。
また面白いアニメ、紹介してください。
ef - a tale of melodies. DVD_SET 1
- 発売日: 2012/11/21
- メディア: DVD