雲上四季〜謎ときどきボドゲ〜

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

弱者のための生存戦略


 とかく世のなかとは生きにくいもので、右のひとがああ言えば、左のひとがああ言い、別にどっちだっていいんですけれど、どっちかには従う必要があったりして、どっちも嫌なんだけどなあと消極的な姿勢を示したらさいご、左右の両方から攻撃を受けたりします。
 そんな、ままならない社会に生きていると思うのですが、少し前に借金玉さんの『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』を読みまして、なるほどなあと思ったので、今日はそのあたりを書いてみます。

発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術

発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術

よく知らないけれど、発達障害について

 ここ数年、少しずつ耳に入るようになってきた言葉、発達障害。
 自分にとっては聞き馴染みがないですが、それは、おそらく自分に関係ないか、関係するひとが周りにいないから情報が入ってこないだけなのだと思っています。
 自分に関係ない、と断言してしまいましたが、実は、そうでもないような気がしていて。
 子どもの頃は、親や先生に迷惑をかける子でした。
 物心がついておらず記憶にないですが、幼稚園で問題を起こし、3度ほど変わったそうです。母親には感謝すると同時に、自分の子どもがこんなだったら大変だろうな思います。


 まったく成長しないまま小学校に上がり、小学校でも相変わらずな感じで親や先生の手を焼き続けていたのですが、ある日「テストを受けてみないか?」と言われて、謎めいたテストを受けました。
 今でも、なんのテストかは分からないのですが、その結果が上々だったのか、その日以来、先生や周りの評価がずいぶんと変わり、驚きました。


 もてはやされるのをいいことに、まったく成長せずに時間を重ねた結果、中学で挫折を味わうことになり、その後、受験失敗からの浪人を経て、自らを変えていくことにしました。

人間を偽装し、社会に潜伏する

 偽装する
 と、自分のなかでは呼んでいますが、周囲に馴染み、溶け込むことを強く意識しました。本来の自分ではないけれど、元々そうであったかのように振る舞う、という意味で偽装だったのですが、かれこれ10年以上、偽装し続けていたら、もう偽装なんだか、そうじゃないんだか、分からない感じです。
 今でも、心の奥底深くにある芯の部分は変わっていないつもりで、偽装せずに生きているがゆえに、避けられていたはずの障壁に全力でぶつかりにいくひとを見ると「生きにくいひとだなあ」と、遠巻きに見てしまいます。

すごいんだけどすごくない「すごい仕事術」

 前置きが長くなりましたが、偽装によって他者だけでなく自分も騙しているつもりだけれど、実は発達障害なのかも。今は食えているけれど、食えなくなる日が来るかも。そんな、ふしぎな焦燥感に駆られて読みました『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』。
 結論から言うと、すごいんだけど、すごくないなあ、という感じでした。

1を10にするのではなく、0を1にするすごさ

 かいつまんで説明すると、当たり前のことが、当たり前にできないひとが、なんとか無理くりできるようになる、そのための手法が、ライフハック術というかたちで山ほど紹介されているのです。
 なかには「あー、分かる分かる」というものもあれば、その一方で「ここまでではないなあ」というものもあります。
 できる。
 と、できない。
 の間には雲泥の差があります。
 本書で紹介されている手法は、この、できない、をできる、に変えるテクニックです
 たとえば、朝、起きる方法。
 布団から出るためのテクニックが、真面目に説かれているのですが、毎朝、起きられているひとにとっては、参考にもなんにもならないテクニックなのです。
 でも、起きられないひとには、めっちゃ重宝しうるものですよね。

強者ではなく弱者のための生存戦略

 大学のとき、ゼミの先生が、学問をめっちゃくちゃ大きいキャンバスに描かれた絵だと表現しました。その絵は、あまりに大きすぎて、誰にも全容が窺えません。勉強を続けることで、だんだん絵の末端に近づき、やがてはキャンバスと絵の境界線に辿り着く、そして筆を手に執り、キャンバスに絵の具を塗り、絵を拡張する。
 これが研究だと教わりました。


 人間は、ただひとりではなく、大勢であるという点が、他種族に対するとてつもない強みで、とてつもない独自性だと思っています。キャンバスに一筆を加えるチャンスは誰にでもあって、そうすることで世界は広がります。
 ですが、筆を執れるのは生きているひとだけです。
 生きているひとだけが、世界を拡張し、人類史を前へ進めます。
 そのチャンスは、あまねく提供されるべきだと思い、そのためには、まず生きるのが大事なので、その可能性を秘めているひとこそ死なず、生きつづけてもらえればと願います。

終わりに

 あんまり自分には役立ちませんでしたが、とても良い本だなと感じました。
 生きる術を持たず、倒れてしまいそうなひとが、ほんとうに倒れてしまう前に、本書に巡り会えることを願います