浦沢直樹の『MONSTER』を読み終えました。
親がビッグコミックオリジナルを購読していて、子供の頃にリアルタイムで追っていましたが、途中で止めてしまっていたので、まとめて読むのは、そして最後まで読んだのは初めてです。
まだ、読み終えて、少し呆然としているのですが、ヨハンの行動について少し考えてみました。
ネタバレしていますので、未読の方で、新鮮な気持ちで読みたい方は、回れ右推奨です。
MONSTER 完全版 (1) (ビッグコミックススペシャル)
- 作者:浦沢 直樹
- 発売日: 2008/01/30
- メディア: コミック
『MONSTER』とは何か?
ジャンルとしては、ホラーに位置づけられることでしょう。
サスペンスとも、スリラーとも、ミステリーとも読み取れるかもしれませんが、この作品を短くまとめようとすると、それは、ヨハン・リーベルトとは何者で? 何を成し遂げようとしていて、彼の言う「怪物」とは何なのか? が、物語を牽引する謎でありつづけ、そして、その怪物が狂気や恐怖の代名詞であった以上、やはり、この作品はホラーで間違いないでしょう。
ヨハンが何をしたいのか分からないのが怖い
人間は未知なるものに恐怖を抱くと言います。
幽霊の正体見たり枯れ尾花、ではないですが、それが何であるか分からないから怖い、分かったら怖くなくなる、というのは多かれ少なかれあることでしょう。
ヨハン・リーベルトが何をしようとしているのか、彼の目的、狙い、願いは何なのか? それは物語の最終盤まで明かされません。ただ、意味不明なまでに高いカリスマ性が発揮され、彼の影響を受けたものたちが殺人鬼となり、ひとを殺していく様子が淡々と描かれつづけます。
彼は、どうして人々をコントロールして殺戮を遂行しているのか。
いったい何が、彼を駆り立てるのか。
彼の内側に救っている「怪物」とは何なのか? それが分からない怖いわけです。
果たしてヨハンは何をしたかったのでしょうか──?
名前のない「終わりの風景」に立つということ
作中において、度々、描かれる「終わりの風景」それは、名前が存在しない、どんなに素敵な名前があったとしても誰にも呼ばれない=自分を知るものが存在しない世界のことを指す様子です。
このことを明確に示唆したのは、ヨハンの命を救い、また彼にヨハンという名前を与えたヴォルフ将軍です。
彼は、彼の身の回りにいた、すべてのひとをヨハンに殺され、誰も、自分のことをほんとうには知らない、名前のない世界に放り込まれました。ヴォルフ将軍の気持ちを考えてみたとき、これが、どれだけの恐怖か、少し垣間見えたような気がします。
ある人物が、肉体的な死を迎えた後、すべてのひとに忘れ去られ、世界からそのひとが生きていた痕跡が失われたとき、ひとは、ほんとうの意味で死ぬという考え方があります。では、生きているうちに、そのような境遇に陥ったとしたら? それは、生きながらにして死んでいる、ということなのではないでしょうか?
ヨハンが向かおうとした先
誰の記憶にも残らない程
鮮やかに消えてしまうのも悪くない
──the pillows『Swanky Street』
ヴォルフ将軍のように、他者の手によって名前のない世界に追いやられるのは、ある種の悲劇と言えるでしょう。
しかし、自ら、名前のない世界に向かおうとするのは、いったいどのような精神状態にあるのでしょうか。
あるいは無を望む狂気こそが、ヨハンが抱えていた闇。周囲を巻き込み、とてつもない死を量産する破滅的とも言える社会的な自殺というのが、この作品で描かれた未知なる恐怖……だったのかもしれません。
MONSTER 完全版(ビッグコミックススペシャル) 全9巻セット
- 作者:浦沢 直樹
- 発売日: 2008/12/08
- メディア: コミック
終わりに
浦沢直樹作品を通しで読んだのは『PLUTO』に続き2作目になります。
次は『MASTERキートン』を一気に読みたいですね!