雲上四季

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

木曜日の彼方にて超新星大爆発

 連休明けの仕事は、調整の連続ですね。
 歯車がひとつ欠けると、全体として機構が連続して稼働しないように、一週間も誰かが休んでしまうと、そのひとが別段、有能であろうがなかろうが歪みが生まれるのは当然のことかもしれません。休暇に入る前に打っておいたつもりの布石は、上手く起爆して、誰かが継いで、その先にいる誰かにパスされたり、或いは受け取るべきひとが、受け取っている自分を観測してくれる何者かが不在であることに油断して、そのままにしてしまったり。この社会というのは海のようなものですね。流動があり、不動があり。
 久々の労働に身体が驚いたのか、帰宅するときには、驚くほど疲弊していました。
 お風呂から出てみると、全身が怠く、iPhoneを両手で支えても腕が疲れて仕方なくなるレベルです。しまいには、吐き気までし始めたので、30分ほど横になって、それから夕飯を頂いて、また横になって、ようやくキーボードを打てるくらいに回復しました。と言っても、こんな時間なんで、明日に備えて寝ないとですが。
 横になっている間、大森望責任編集『NOVA 4』を読了しました。
 先に「序」と「編集後記」を読んだのですが、大森望の奮闘ぶりが伝わってくる文章ですね。かなり疲れている様子と、いやいや自分はまだまだやれるぜという気概を感じましたが、きっと、その根底にあるのはSFへの愛であり、小説への愛であり、未来への希望でしょう。以下、寸評。
京極夏彦「最后の祖父」幻のデビュー作と銘打たれ、もしかしたら『姑獲鳥の夏』ではなく本作がデビュー作になっていたかもとのことですが、いやいや、それはないでしょう。と手を振ってしまうくらいには、小手先に依った作品でした。系統としては『死ねばいいのに』に近いかもしれませんね。よくも、まあ、ここまで愚痴愚痴と手を変え品を変え延々と呟けるものです。いっそ、Twitterでもやっていればいいのに、したらリムーブするのに。と、思いながら読んでいましたが、ある種、素っ頓狂とも言える結末には、思わず「えぅっ?」と変な声を出してしまいました。驚きました。
北野勇作「社員食堂の恐怖」世にも奇妙な物語風とでも言えばいいのか、ちょっと足を踏み外した現実みたいな感じの一品。違和感を覚えざるをえない設定に対し、必死に現実感を与えようと、色々な説明が試みられていましたが、そんな工夫はせずに、もう突き抜けてしまった方が面白いのでは? と思う一方、こういう迂遠な感じが、またひとつの面白味を生み出しているような気がしないでもありません。
斉藤直子「ドリフター」京極夏彦北野勇作の次に読むと、実に面白く読めて驚きました。大森望も解説で述べていましたが、本作の主題となっているのは既存のネタで、まあ、正直、大して面白くはありません。しかし、小学生男子の小気味よい口調に、惜しみなく投入されるあらゆるネタを読み続けていると、なんだかんだ言って、やっぱり面白く読めてしまうのです。この出し惜しみしない感じ、持てるものを全て出しきろうとする意気込みが伝わってくるのが良いですね。他の作品も読んでみたいです。
森田季節「赤い森」ほうほう、いやいや、これは面白いんじゃないですかね? 森田季節の作品を読むのは初めてですが、ライトノベルらしさは微塵も覚えませんでした。それよりも、民俗学を勉強している学生の生々しさが浮き彫りになっていて、いや、文章が上手いなあと感心すること頻り。最後の急展開は「ええーっ?」という感じなのですが、一歩引かずに、そこからさらに踏み込んで、もうガチガチのSFに突入していっても良かったんじゃないかと思います。バカSFという言葉がありますが、いや、突き抜ければ本格SFになると思うのですよね……。
森深紅「マッドサイエンティストへの手紙」大企業の一社員が、最新技術を駆使しロボットを作るマッドサイエンティストと共に事件に挑む、尚、助手は兎。──なんて、全秋山が伏して称えるような設定でありながら、肝心のマッドサイエンティストマッドサイエンティストっぷりが全然、キてませんでした。描かれる天才性は、どこかピントが外れていますし、恋愛感情が何処から生まれたのか、どうしてその方向に向かうことになったのかも理解できません。まあ、大企業っぷりは、いかにもという感じで上手いなと感じましたが、続きが出ても、特に気にならないレベルです。
林譲治「警視庁吸血犯罪捜査班」これは秋山のような、はじっこ本読みがわざわざ感想を述べるような作品ではないですね。少し未来の、吸血鬼が現実世界に存在するという設定を、非常に淡々と描いた、完成度の高い作品でした。紙幅の都合から、世界観に比して、殺人事件ならぬ吸血事件がお粗末な印象を受けはしましたが、そこは別に作品の主題ではないので指摘は的外れでしょう。良い作品でした。
竹本健治「瑠璃と紅玉の女王」非常に悪趣味な、寓話的短編。結末には嫌悪感しか覚えなかったのですが、今まで竹本健治は3冊ほど読んで、いずれも肌に合わなかっただけに、本作をするりと読めた自分に驚きです。なんででしょうかね。まあ、個人的な問題なので、良いですけれど。作品としては嫌いなんですけれど、そんなに嫌いではないですね。筆致と展開自体は、むしろ好きな部類に入るかもしれません。なんとなく『サガフロンティア2』を思い出しました。
最果タヒ「宇宙以前」これは傑作……とは言いませんが、本書に収録されている作品の中では、随一だと思います。始まりは非常に幻想的な、内容を理解するのではなく、ただ字面を追って、そのほわほわとした甘い幻想感を楽しむだけの作品でした。しかし、中盤から、夢であることが実は夢でなかったことが明かされ、というか現実であったことが判明し、思わず「おおお」と叫びました。しかし、その驚きは一段階目に過ぎず、その後、第二弾、第三弾の驚きが待ち構えているのです。詩のひとであると解説されていたので、もう少しリズムを楽しむ作品なのかと思いましたが、いやはや、しっかりとストーリィしていたどころがグルーブしていました。この、ぐわんぐわん感は一読の価値あり、と言わずを得ません。
山田正紀「バットランド」直前に収録されていた「宇宙以前」にだいぶ満足し、さらに『NOVA』史上最長を誇る200枚の本格SFと言われ、思わず尻込みしてしまいました。が、まあ、うん、面白かったかな、と。主人公の口調や挿入されるコウモリの話、中盤のインド神話が出てくる場面は「ああ、いかにも山田正紀」だなあという感じで、まあ、なんていうか山田正紀でした。どこを切っても山田正紀という、山田正紀ファンには堪らない、うん、まあ、良いんじゃないでしょうか。結末の、ほろ苦い甘さが好みなので、終わりよければすべてよしの法則に従い、良い作品であり、良いアンソロジィでした。