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ベルカ、吠えないのか?

ベルカ、吠えないのか?

 狩人の生活。学はないものの自然の中に暮らし、その脅威と恩恵を肌で感じているからこそ、言語と知性でもってそれを継承した人間たち以上にそれを知っている。それとは、つまり根っこの部分のことである。物語の根幹、人間の来歴、世界の真理。論理の対極に立っているかのような文体は、荒々しく押し付けるように語りかけるものであり、ときに心を打ち、ときに読みにくい。しかし確実に伝わってくる、それが。
 読むのが僅かに遅かったなと悔いた。二度、その読みにくさから投げてしまっていたのだが、あのときに最後まで読んでいたら必ずや2005年のトップテンに入れていただろうと思う。また、この文体は何処となく舞城王太郎のそれと似ているように思う。あるいは今、舞城をもう一度、手に取ったら面白く読めるかもしれない。古川を経ることで、舞城を面白く読めるステージに進めたかもしれない。
 読了後、どうしてこの作品がこのミステリーがすごい! に含まれているのかと少しだけ思い悩んだ。つまり、ベルカの血統にまつわる部分がミステリなのだろうか。あの四頭のうちいずれかを祖に持つイヌ、或いはあの四頭とは全く関係のないイヌ、もしくは四頭全てを祖に持つイヌ。もしかしたら、そういったところをミステリだと考えた人がいたのかもしれない。が、秋山は、そこは看過すべきポイントだと思う。イヌは家系図を持たず、イヌの祖を気にするのは人間だけだということ。文学として楽しんだ。