雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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2013年に読んで面白かった本ベスト15

 遅くなりましたが2013年に読んだ本の内、面白かった本をまとめました。
 今年は、ここ数年に刊行された作品として新刊近刊枠で10冊、少し前に刊行された作品として既刊枠で5冊、計15冊です。
 せっかくなので、全作について、ゆるゆる語ってみたいと思います。のんびりご覧ください。

舞城王太郎JORGE JOESTAR

JORGE JOESTAR

JORGE JOESTAR

 いきなり2012年の作品で恐縮なのですが、舞城王太郎による『ジョジョの奇妙な冒険』のトリビュート作品『JORGE JOESTAR』です。
 いや、これ、大傑作なんですよ。
 ミステリ作家としての舞城王太郎の最新の発想が、これでもかと詰まっているのですが、いかんせん見た目が悪くて、ミステリ読みの手元には届いていない気がするのですよね。どうなんでしょうか。
 舞城王太郎のデビュー作『煙か土か食い物』は、暴力的な文体ばかりが目につくのですが、事件や真相の描き方という点において、ミステリとしても興味深い要素が多いと思うのです。その方向に特化したのが『世界は密室でできている。』であり『九十九十九』なわけですが、前者はともかく、後者は清涼院流水のJDCトリビュートとしてリリースされてしまったため、これも、今ひとつ注目を浴びていないような気がするのですよね。
 ルンババ12や九十九十九が活躍するのは、この2作だけではなく『ディスコ探偵水曜日』にも出てきます。これが、また世紀の大傑作で、舞城文学の集大成であると同時に、過去現在未来、そしてあらゆる時空を縦横断するミステリでありSFであり、そして何よりも救済の物語であるというのが、非常に素晴らしいです。
 回り道しましたが、本書『JORGE JOESTAR』にはジョナサン・ジョースターの息子にして、ジョセフ・ジョースター父親であるジョージ・ジョースターの友人として、ツクモ・ジュークが登場するのです。ついでにルンババ12や『ディスコ探偵水曜日』に登場した名探偵たちも出てきます。そう、世界は異なりますが、なんと、この作品はジョジョトリビュートであると同時に、『世界は密室でできている。』『九十九十九』『ディスコ探偵水曜日』に続く、シリーズ第4弾と読み取ることも出来るわけです。
 そして、そう読み取れるということは、すなわち根底に流れるテーマも通じているわけです。舞城文学における暴力と救済が、荒木飛呂彦が奏でる人間讃歌と組み合わさったとき、鳴り響くのは超轟音感動オーケストラ。いやはや、これは、すごいことですよ、まったく。
 こんなにも素晴らしい大傑作なわけですが、惜しむらくは読み手に、ある種のリテラシーを要求していることでしょう。舞城作品の他に荒木飛呂彦ジョジョの奇妙な冒険』第1部から第7部に加え、九十九十九という概念を理解しようとするならば清涼院流水『コズミック』『ジョーカー』『カーニバル』『彩紋家事件』まで読んでいなくてはなりません。それらがすべて既読であれば、すこーん! と(あるいは、ぴこーん!)舞城王太郎のやろうとしていることが腑に落ちるでしょうが、そうでないと、少しばかり手こずるかもしれません。
 ただ、まあ、この小説を読むために荒木飛呂彦清涼院流水は、充分に、読んでいい作家、だと思うのですよね。そんなわけで2013年のベストは舞城王太郎JORGE JOESTAR』ということで、ひとつよろしくお願いします。

ローラン・ビネ『HHhH(プラハ、1942年)』

HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)

HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)

 続いては2013年の文学界、ミステリ界、SF界……と言ったジャンルに囚われず、その上位に位置する小説界を震わせたローラン・ビネ『HHhH(プラハ、1942年)』を取り上げたいです。いやはや、これは、まったく、すごい小説ですよ。
 2010年ゴンクール賞最優秀新人賞を受賞し、「ニューヨーカー」「ガーディアン」「タイムズ」で絶賛され、現代フランス文学に悠然と光り輝いている様子ですが、まあ、そういう外側はさておき、タイトルは、ドイツ語の「Himmlers Hirn heist Heydrich」を省略したもの。日本語に訳すると「ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる」です。「第三帝国でもっとも危険な男」と恐れられた、ある男の半生と、彼を襲うレジスタンスの若者の物語です。
 物語。と、今、うっかり使ってしまいましたが、果たして本書が「何」であるのかは、正直なところ、未だによく分かっていません。本書はノンフィクションよろしくハイドリヒの半生を綴っていますが、途中途中で、ノンフィクションの書き手たる「僕」なる存在が登場するのです。「僕」は、この小説が事実に基づいた歴史そのものであると自慢する一方、より小説であるために、事実であるかは知らないが、それっぽい脚色を交えてしまったことを詫てきたりするのです。
 あらゆる歴史小説は、小説の形になった瞬間に、もはや歴史ではない
 ならば、誰も歴史を語れないのか
 ハイドリヒとレジスタンスの物語を綴りながら、そういった「小説」という概念に対する、ある種、根源的な問いが突きつけられてきたりするのです。中々に新鮮な読書体験でした。小説の在り方を揺るがしかねない小説として、本書が絶賛されるのも納得です。

宮内悠介『ヨハネスブルグの天使たち』

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

 非常にハイレベル、非常に革新的
 アフガニスタン、9・11後のニューヨーク、荒れ果てた東京。現代社会が抱えた闇や病を、そのままに放置して、技術だけが先行していった先に、果たして何が待ち受けているのか? 現在の人間が、考えて、解決に向けて手を動かさなければならない問題を、放置したら何が起きるのか?
 この作品は、もはや「読んで楽しい」だけの小説の枠組みを逸脱しているような気がします。未来を、幻想を「許す」SFという枠組みのちからを借りて、書かれているのは渾身の問題提起であり、警鐘であり、在るべき姿としての文学だと思います。
 前述したように、描き出そうとされているものがハイレベルで、秋山自身、完璧に読み解くには至っていませんが、それでも、本書はものすごく煌めいて、眩しいです。こういう小説を三十代の現代小説家が書いている。もっと称賛されて良いことでは?

ルネ・ドーマル『大いなる酒宴』

大いなる酒宴 (シュルレアリスムの本棚)

大いなる酒宴 (シュルレアリスムの本棚)

 このペースで書くと書きすぎるので、少しペースを落とします。
 風濤社の叢書「シュルレアリスムの本棚」第一回配本。国内では巌谷国士が訳した『類推の山』が読めるだけでしたが、この度、風濤社によって日本語で読めるのが増えました。素晴らしい。
 叢書の名前に「シュルレアリスム」とあるので、いわゆるシュルレアリスムに含まれる作品かと思いきや、ルネ・ドーマル自身は、アンドレ・ブルトンに誘われつつも反旗を翻し「ご注意なされよ、アンドレ・ブルトン。のちのち、文学史の教科書に掲載されることのなきよう」と告げたりして、なかなかに好戦的です。
『大いなる酒宴』は全3部で構成されている作品ですが、全体的に創作の在り方や、主義主張の在り方について模索している作品です。酔っ払ったおっちゃんたちが、好き勝手に騒ぎまくる第一部、ダンテの『新曲』よろしく人工天国を訪れシジン、ショーセツカ、ヒヒョーカといった偽物たちと対峙する第二部、そして第一部と第二部をアウフヘーベンして到達する第三部。なかなかに白熱します。
 けっこう、わりと、本気で面白かったので、この叢書は、ちゃんと追っていこうと考えています。

酉島伝法『皆勤の徒』

皆勤の徒 (創元日本SF叢書)

皆勤の徒 (創元日本SF叢書)

 好きな作品については、語り過ぎてしまうきらいがあるので、ペースが落とせません。困りました。
 第2回創元SF短編賞を受賞した表題作を含む連作短編。最初に受賞作を『結晶銀河』で読んだときは、飛行機の中で読んだこともあってか、ひたすらグロテスクな幻想が気持ち悪かったです。なんか、よう分からんドロドログログロした世界観の、劣悪な環境で、異形の社長にこき使われて、酷い有様になるところは、もう辛くて辛くて、でも、我慢して読み続けたら、最後の数ページで「ほへっ」と目が覚めて「あ、せかい、ほろんだ?」みたいな。
 次に伝法さんの作品に触れたのは『原色の想像力』に掲載された「洞の街」です。非常に興味深かったですね。表層的には『皆勤の徒』同様にグロテスクで、ドロドロしているのですが、やっていることは青春と言うか恋愛みたいな感じで、でも、状況や場面を想像すると、あまりの気持ち悪さに吐きそうになったり……、奇っ怪極まりないです。
 こういった経緯を経て、短編集として『皆勤の徒』をまとめて読んだところ、記憶とはぜんぜん異なり、SFとして読めたことに驚きました。これは、再読の悦びのひとつですよね。前回に読んだときとは異なる読み方ができるというのは、楽しい読書体験です。そして、大森望の解説も素晴らしい。伝法さんの小説もそうなのですが、大森望の解説が、ほんとう労作のうえに、名文なんですよね。グロいのが苦手なひとも、ちょっと勇気を出して手にとっていただきたい。

横山秀夫『64』

64(ロクヨン)

64(ロクヨン)

 2012年のこのミスの1位だったので、確か2013年の1月に読んだ記憶があります。
 横山秀夫を読むのは初めてですし、実は警察小説を読むのも初めて。
踊る大捜査線』みたいのを想像しながら着手したのですが、もう、すぐに青息吐息でしたよ。だって、なんか、四方八方から、ひたすら責められるんですもの。ひとつの問題に、解決の目処が立ったと思ったら、新たな問題が起こって、そちらに注力して、ようやく、なんとかなりそうな感じがしてきたら、今度は、こっちで、そうこうしている内に、騙し騙しやってきた諸々が決壊しかかって。分厚い本なのですが、ぜんぜん「今夜は、ここまでにしておこう」と本を閉じることができなくって、しょうがなく、ずっと、ずーっとページを繰り続けていました
 結末は、好みの類ではありませんでしたが、読んでいる最中は、ひたすら楽しかったので良しとします。
 読み終えてから考えたのですが、この小説の面白さは舞台が警察でなくとも再現できそうですね。たとえば会社の広報担当であっても、中盤の展開は、同じようになぞれそうですし、中間管理職の悲哀的なものも充分に書き出せそうです。会社小説ないし企業小説と言うのでしょうか。そういうのも、ちょっと読んでみたいですね。

北山猛邦『猫柳十一弦の後悔』

猫柳十一弦の後悔 不可能犯罪定数 (講談社ノベルス)

猫柳十一弦の後悔 不可能犯罪定数 (講談社ノベルス)

 純粋に面白かった国内ミステリと言えば、北山猛邦の『猫柳十一弦の後悔』およびシリーズ第2作となる『猫柳十一弦の失敗』が、いちばん面白かったですね。
 探偵という存在が好きなのです。
 だから、麻耶雄嵩が好きで。
 だから、法月綸太郎が好きで。
 だから、北山猛邦も好きなのです。
 今までいちばん好きな探偵はメルカトル鮎でしたが、今は猫柳十一弦の方が好きです。シリーズ第3作が楽しみですね。

京極夏彦 x 柳田國男遠野物語remix』

遠野物語remix

遠野物語remix

 柳田國男が遠野の地で集めた奇談怪談を、京極夏彦が現代語訳したものです。
 読み始めは、けっこう困惑しました。と言うのも、もう少し物語物語していると思ったのですが、意外に寄せ集め感がありました。不勉強ですが、原本が未読故、京極夏彦のちからによって、どれくらい読みやすくなっているかは分かりませんが、京極独自のテイストは、前面に押し出されておらず、あくまで元々の雰囲気を大事に、読みやすく直しただけに留めているように感じられました。
 内容ですが、序盤の内はバラバラ感を覚えましたが、中盤からは、けっこう、遠野の独自の雰囲気というのが分かってきて、断片を繋ぎ合わせるようにして、頭の中に、遠野の地が構築されていくのが面白かったです。
 これから遠野に触れたい方には、オススメです

森博嗣『相田家のグッドバイ』『赤目姫の潮解』

相田家のグッドバイ

相田家のグッドバイ

 新刊近刊枠のラスト2冊は、どちらも森博嗣です。
 適当に言いますが、多分、赤川次郎と並んで、日本でいちばん密室を書いているミステリ作家ではないでしょうか。『すべてがFになる』は、とてもセンセーショナルで、しばらくは理系ミステリだとか、森ミステリィと話題を呼びましたが、多くの方がVシリーズで、あるいはGもしくはXシリーズにおいて脱落気味ではないのでしょうか。あるいは『スカイ・クロラ』を、ちょっとかじっただけとか。
 確かに、詩情に溢れ、ミステリ的にも斬新だったS&Mシリーズに比較すると、「シンプル、シャープ、スパイシィ」がコンセプトとして掲げられたVシリーズは、やや薄口で、GおよびXシリーズに至ると、その傾向に拍車が掛かります。最初の頃はファンだったけれど、最近の森博嗣は読んでいない。そういう声を聞くことも少なくありません。
 しかし、ですね。
 これは、ファンの贔屓目を抜きにしてですね。
 最近の森博嗣の輝きっぷりは半端ないですよ
 ええ、ほんとに。
 具体的には2010年の『喜嶋先生の静かな世界』を皮切りに、ヴォイド・シェイパシリーズ、『相田家のグッドバイ』ジグβは神ですか『赤目姫の潮解』あたりは非常に新しいです。『喜嶋先生の静かな世界』と『相田家のグッドバイ』は自伝的小説だとしても、その他の作品は「まだ、森博嗣は、こんな引き出しを隠していたのか!」と驚嘆する出来栄えですよ。
 だから、騙されたと思って、もう一回、森博嗣を読んでみてくださいよ。

休憩

 と言うわけで、ここまでで10冊です。
 もう、だいぶ書いてしまった感がありますが、もうひと踏ん張り、がんばって行きましょう。

ディック・フランシス『度胸』

度胸 (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-5 競馬シリーズ)

度胸 (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-5 競馬シリーズ)

 ディック・フランシスの著作は中学の図書館に、ずらりと揃っていて、ずっと気になっていたのですが、競馬だし、海外だし、長らく着手できないでいました。読むきっかけになったのは、翻訳ミステリー大賞シンジケートの名古屋読書会があったからです。
『度胸』『興奮』『大穴』『利腕』と読みましたが、『度胸』がいちばん良いですね。確かにミステリ的には『興奮』ですし、どん底からの再起という観点ではシッド・ハレーが活躍する『大穴』からの『利腕』が素晴らしい流れなのですが、最初に読んだという点に加えて、競馬のシーンがしっかりと描かれている『度胸』が、いちばん好きですね。
 まだ、4作しか読んでいませんが、今のところディック・フランシスだったら、何を読んでも面白いのでは? という気がしています。どの作品も競馬という題材が共通していますが、どちらかと言うと、タフな男が遭遇するディシプリン(試練)というテーマの方が強くて、実は、競馬は、ガジェットに過ぎず、男の精神力を駆動させる、ひとつの要素として用いているだけな気もします。
 そんなわけで、どちらかと言うと、逆境だとか、苦難だとか、試練だとか、再起だとか、復活だとか、反撃みたいなキーワードに熱を覚える方にこそ、読んでいただきたいですね。興奮して眠れなくなりますよ。

ヒラリー・ウォー『失踪当時の服装は』

失踪当時の服装は (創元推理文庫 152-1)

失踪当時の服装は (創元推理文庫 152-1)

 海外ミステリからもう1冊、失踪した女子学生を追う警察小説ですね。
 証拠という証拠を洗い、洗い、何度も洗い直し、現場を訪れ、訪れ直し、証言を聞き、聞き直すような前半は、けっこう辛かったですね。何て言うか「この事件は解決できないのではないか」だとか「もう彼女は見つからないだろう」みたいな、霧に包まれていく感じに満ちていました。
 盛り上がるのは中盤以降ですね。
 ひょんなことが突破口となり、次から次へと進展し始めるのは、さながら真っ暗に闇に差し込んだ、一筋の光を追い求めている内に、光の中に飛び込んでいた、みたいな。最後のシーンなんか、けっこうグッと来ます。ちょっと前半が辛いかもですが、後半の爆発力を思うと、ぜんぜん読めますね。

カート・ヴォネガット・ジュニアタイタンの妖女

 なかなか難しかったです。多分、人生で、もう何度か読み返すでしょうから、今は、完璧に理解しなくともいいやと思って、どんどん読み進めました。特に火星に飛んでからが辛かったですね。つい、さっきまで地上の大富豪の話をしていたのに、なんで火星で戦っているの……? みたいな。
 でも、がんばって読み進めて良かったです。
 地球やら水星やら、時間と空間とを縦横無尽に駆け巡った果てに至った炊いたんにおいて、ようやくラムフォードの目的が見えたような気がして「何が描かれているのかを掴みかける」という、そうそう得られない読書体験ができました。
 振り返ってみると、わりと感動的な話でもあって、運命だとか、意志だとか、そういう人間の内側にあって力強いものや、もっと広い次元にあって抗えないものや、そういう諸々を肯定する話でもあったのかなあ、と。
 わりとSFの文脈で語られることの多い作品ですが、ジャンルの壁を越えて、根源的な小説としても、極めて優れていると思います

小松左京『果しなき流れの果に』

果しなき流れの果に (ハルキ文庫)

果しなき流れの果に (ハルキ文庫)

 国内SFの傑作と名高い一作。第一章と第二章は半村良栗本薫の伝奇小説や『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』を思い返したりして、好みの雰囲気だなあと思っていたら、第三章から、いきなりガチSFになって「うひー」と頭を抱えました。
 完全に『タイタンの妖女』と同じ展開ですが「しょうがない、読むしかない!」と、がりごり読み進めていって、途中で軸が見えた瞬間の驚愕と感動たるや言葉に出来ません。
 ただ、まあ、やっぱり序盤の展開が好みだったので、後に明かされる役小角の正体の方が白熱したかなあ、とも。後、エピローグ(その1)の雰囲気は良いですね。こういうの泣けます。
 時間物と言うか、歴史改変と言うか、小松左京は、同様のテーマに、他の作品でも挑んでいるらしいので、他のも読んでみたいですね。もっと復刊したり、電子書籍化したりしていただきたい。

泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』

亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫)

亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫)

 長くなりましたが、ついに最後です。
 名探偵一覧を作ったならば、最初に登場するであろう探偵、亜愛一郎を探偵役とした三部作の一作目です。
 3冊全部、読んだのですが『狼狽』がいちばん好きですね。特に「曲った部屋」が好きですが「ホロボの神」も傑作ですし、「黒い霧」も良く出来ています。「右腕山上空」や「掌上の黄金仮面」も悪くありません。と言うか、全部、良いです。
 基本的に、どこにも謎があるように見えない、ただの日常風景を切り取っただけと見せかけて、背後に凶悪犯罪が潜んでいるという話が好きなのです。そういう意味では、アイザック・アシモフブロードウェーの子守歌」(『黒後家蜘蛛の会』所収)や浅井ラボ『TOY JOY POP』が好きな方も、面白く読めるのではないでしょうか。
『転倒』や『逃亡』においては、言葉遊びを多用した作品や、ドタバタな作品が増えてきて、それはそれで面白いのですが、やはり巧妙に仕込まれた、容易には、それと気づけない伏線をかき集め、あっと驚くような真相が浮かび上がってくるのが好きです
 後、直接的な関係はありませんが『逆転裁判』が好きなので、「DL6号事件」の元ネタになった「DL2号機事件」を読めたのも良かったです。面白いですよ。

おわりに

 と言うわけで、ちょっと頑張りすぎてしまいました、2013年に読んで面白かったベスト15でした。
 今年も新旧、どちらに偏ることもなく、いろいろな小説を読んでいきたいと思います。
 現代日本作家の新刊だけでなく、翻訳も含めていろいろな小説を読むようになって思ったのは、文体の差異ですね。読みやすい文章が良い文章であり、良い文章で書かれた小説が良い小説だという言説を、ときどき見かけたりしますが、結局のところ、読みやすい文章というのは、現代日本という文脈に沿った文章に過ぎず、ものの見方が画一的になってしまっているのではと感じました。今回、挙げたタイトルの多くは、そういう方からすれば良い小説に含まれないだろうなと思ったりします。
 今年も素晴らしい本に出会えますように。

今回、取り上げた、その他の本

煙か土か食い物 (講談社文庫)

煙か土か食い物 (講談社文庫)

世界は密室でできている。 (講談社文庫)

世界は密室でできている。 (講談社文庫)

九十九十九 (講談社文庫)

九十九十九 (講談社文庫)

ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈中〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈中〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈下〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈下〉 (新潮文庫)

コズミック流 (講談社文庫)

コズミック流 (講談社文庫)

ジョーカー清 (講談社文庫)

ジョーカー清 (講談社文庫)

ジョーカー涼 (講談社文庫)

ジョーカー涼 (講談社文庫)

コズミック水 (講談社文庫)

コズミック水 (講談社文庫)

カーニバル一輪の花 (講談社文庫)

カーニバル一輪の花 (講談社文庫)

カーニバル 二輪の草 (講談社文庫)

カーニバル 二輪の草 (講談社文庫)

カーニバル 四輪の牛 (講談社文庫)

カーニバル 四輪の牛 (講談社文庫)

カーニバル 五輪の書 (講談社文庫)

カーニバル 五輪の書 (講談社文庫)

彩紋家事件 (2) 白と夜 (講談社文庫)

彩紋家事件 (2) 白と夜 (講談社文庫)

彩紋家事件 (3) 彩紋家の一族 (講談社文庫)

彩紋家事件 (3) 彩紋家の一族 (講談社文庫)

類推の山 (河出文庫)

類推の山 (河出文庫)

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

興奮 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-1))

興奮 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-1))

大穴 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-2))

大穴 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-2))

利腕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12‐18))

利腕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12‐18))

亜愛一郎の転倒 (創元推理文庫)

亜愛一郎の転倒 (創元推理文庫)

亜愛一郎の逃亡 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

亜愛一郎の逃亡 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)

黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)

TOY  JOY  POP (HJ文庫)

TOY JOY POP (HJ文庫)