雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

ORIGINAL IMAGE_AMAMIYA KYOUKO

 雨。
 漆黒の闇の中、雨の降る音がある。
 雨に叩かれ烏の濡れ羽色に染まった地面は、コンクリートではなく剥き出しの地面。
 水溜まりの上を根無しの雑草が過ぎる。
 背後に眼を向ける。
 紅の鬼が立っていた――否、鬼ではなく、返り血に染まったひとりの男。
 男の手には日本刀が一口。赤々と染まった刀身が、雨に洗い流されてゆく。
 稲光。
 刹那だけ照らされた、男の凄惨な笑み。
 次いで轟く雷。
 再び雨。
 暗転。


 ふと、顔を上げる。国語教諭が黒板にチョークを滑らせている。
 深緑の中、枕草子の三文字が白い字で綴ってある。その左下には、春は曙とあり、そのまた隣には夏は、で終わっている。
 国語教諭が振り返った。彼は偶然、目の合った生徒の名前を呼ぶと、夏は、に続く語句を答えるように言った。
 今は授業中、雨都京子はそれを思いだす。


『雨都京子の原風景』371文字