雨。
漆黒の闇の中、雨の降る音がある。
雨に叩かれ烏の濡れ羽色に染まった地面は、コンクリートではなく剥き出しの地面。
水溜まりの上を根無しの雑草が過ぎる。
背後に眼を向ける。
紅の鬼が立っていた――否、鬼ではなく、返り血に染まったひとりの男。
男の手には日本刀が一口。赤々と染まった刀身が、雨に洗い流されてゆく。
稲光。
刹那だけ照らされた、男の凄惨な笑み。
次いで轟く雷。
再び雨。
暗転。
ふと、顔を上げる。国語教諭が黒板にチョークを滑らせている。
深緑の中、枕草子の三文字が白い字で綴ってある。その左下には、春は曙とあり、そのまた隣には夏は、で終わっている。
国語教諭が振り返った。彼は偶然、目の合った生徒の名前を呼ぶと、夏は、に続く語句を答えるように言った。
今は授業中、雨都京子はそれを思いだす。