雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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ORIGINAL IMAGE_KIRISAKI YORUBE

 影。
 本来は光に付き添ってあるはずの影が、それだけである。
 どこか遠くから伸びた影が、起き上がって街路樹やビルに姿を変える。
 光源がないのに、明暗が見分けられるのは、ここが夢の世界だから。
 黒い紙を切り貼りして作ったような、立体感のない影の遊戯。
 このデタラメな街並みを許容できるのは、やはりここが夢の中だからだろう。
 明晰夢。夢の中にあって夢の中にあることを知る、ひとつ上の次元から見る夢。
 背後に目を向ける。
 影の女が立っていた――否、女ではなく、短刀を構えた一匹の殺人鬼。
 殺人鬼の口元が三日月型の笑みが広がっている。
 不動……拘束される視界。歩み寄る殺人鬼、振り上げられる短刀。
 影が落ちる。逆光の中に見える笑み。
 殺人鬼の笑み。
 勝者の笑み。
 暗転。


 ふと、目を覚ます。見慣れた、色褪せた天井が目の前に広がっている。
 ベッドから飛び降りて、冷たい床を踏みしめる。
 身体のどこかが傷つけられ、怪我をしているような幻痛がある。姿見に目を向ける。
 異常はない。
 鏡の中に背後の時計があった。窓から差し込む月明かりが、文字盤を照らしている。
 今は夜、霧崎夜辺はそれを思いだす。


『霧崎夜辺の原風景』512文字