雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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ORIGINAL IMAGE_AKIYAMA MAKOTO

 空。
 かつて雲は理論の象徴だった。
 哲学者の頭は雲に掛かり、思考よりも実験を重んじる数学者は床に寝そべっていた。
 ここにひとりの求道する者がいる。
 その者は空を指差している。空を渡る雲を、ではなくそのさらに先。
 雲の上に広がる透明の回廊を、その者は指差していた。
 回廊は複雑に、しかし整然と絡まりあい、互いに互いを喰らい、活かしあっていた。
 それはひとつのシステムであった。思考と実験の両方の上にある、究極のシステム。
 背後に眼を向ける。
 階段があった。空へ続く階段がある。雲に遮られ、どこまでも続いているように見える。
 一歩、きざはしに足を乗せる。階段は消えない。
 行ける。
 そう思い、もう一方の足もきざはしに乗せる。
 暗転。


 ふと、顔を上げる。
 そこは狭い部屋の中。思考と実験が錯綜する、複雑なそして雑然とした部屋。
 背後に眼を向ける。
 階段は――あった。
 慌ててきざはしに足を乗せ、それが消えないことを確認する。
 消えない。
 だから再び、こう思ってしまう。
 行ける、と。
 階段を駆け上り、部屋を出る。
 外の空気は冷たかった。表に出るのは久しぶりだったので、肺を締めつける空気が新鮮だった。
 ふと、顔を上げる。
 桜の樹があった。手を伸ばして蕾に触れてみると、それはまだ固かった。
 今は春、秋山真琴はそれを思いだす。


『秋山真琴の原風景』588文字