雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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NO NAME NIGHT

 北方の空より黒き十字架が攻め込んできていた。無数のそれらは、月の光も星の光も遮り、地上に影を落とす。黒き十字架によって作られる影の中には虚無しかない。闇夜が持つ怪しげなる力をかき消す、幻葬の力が南へと侵攻していた。
 空を埋め尽くす十字架を、眺めているのは執行猶予を持った男。その長身を持ってしても不釣り合いなほど長い衣と大きな帽子を身に付けている。男は長すぎる両手を駆使して、執行猶予を北の空へ向ける。
「私が殺す私が壊す私が消す、私だけが葬る」
 男の詠唱に応じるかのように、執行猶予に刻まれた紋様が輝きだす。
「猶予は刹那にして永遠、唯一なる瞬間を四十八、六の倍数なる秒針を与えよう」
 男は執行猶予を構えたまま静止する。音もなく光を消す黒き十字架が突き進む中、沈黙の四十八秒が流れる、執行猶予の砲塔が輝きに満ちる。猶予期間が過ぎた。
「魔砲、四羽の燕」
 執行猶予の砲塔から、四翼を持つ燕が放たれた。燕は、真っ直ぐに天を昇ると、黒き十字架を飛び越え、北の魔術師の息の根を止めるべく雲の合間を駆け抜ける。燕の道を阻まんと黒き十字架がその身を起こす。しかし燕は減速しない。四つの翼を器用に操って、燕は乱立する十字架の間隙を縫って進む。その燕が行き着く先、北の魔術師の前にひとりの剣士が立つ。絶世の秘剣、燕返しを用いる辿りついた者。彼の者の名は――、


『名も無き剣士』577文字