たった一つの織物のために、方々から寄せられていた因果の糸が解かれようとしていた。織物は既に完成している。それは見事な、それ以上は望むべくもない芸術品にして創作品を形成している。糸は各々、その役目を十全に果たした。後はもう、それぞれの運命に帰っていくだけだ。ときには手を取り、ときには背を向け、ときには微笑んだ。けれど、それはもう終わったのだ。終わったのならば後は帰るだけ。別れを告げ、手を振り、あるいは無言で、それぞれの世界に、それぞれの住処に戻っていくだけ。
別れは悲しい。去ってゆく背中の遥か上空、空を旅する雲でさえ新鮮に見えるだろう。足跡を覆い隠す雪や、後姿を霞ませる雨などは、涙を余計に誘うだろう。手を振り、名前を叫び、思い出を永遠に大切に取っておこうと思うこともある。
けれどやがて記憶は日常に埋もれ、表情も仕草も過去にものになっていく。出会いしものが別れを告げるのは当然のこと。出会ったことも別れたことも忘れてしまうことだってある。そう分かっている。だから、今はただこの織物を眺めよう。数奇なる運命を越え、出会った彼らが紡いだただひとつきりの物語を。
