
- 作者: 太田忠司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/01/31
- メディア: 単行本
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けれど逆に言えば、その程度でもある。子どもときに読んでいれば驚きもひとしお、物語にも凄まじい勢いでのめりこめて、読み終えた際には感動し、すぐにでも再読したくなっただろうが、さすがにそこまでの感動をこの年になってから得ることはできなかった。同じくミステリーランドの一作、森博嗣『探偵伯爵と僕』を読んで、次はどのミステリーランドを読もうかなあと思っていたときに本書をお薦めされたのだが、そこまで面白いほどでもないなと思ったのが正直なところ。――が、政宗九さんのレビューを読んで、なるほどと思った次第。
ミステリーランドを殆ど読んでいない自分には、知りようもなかったことだが、どうやらこのシリーズは巻末に必ず「わたしが子どもだったころ」という題で後書きがつくらしい。勿論、本書にもこの題による文章が巻末についている。しかし後書きとしてではない、エピローグとしてだ。と、そう思っていたのだが、この部分だけ改めて読み直して見ると、確かに、後書きとして読めないこともない。つまり、ミステリーランドとしてのスタイルを逆手に取って、後書きをストーリィに組み込んでいるのだ。さらに冒頭にあった怪しげなる文字列、この暗号をポーの傑作『黄金虫』に出てきた方法に則って解読すると、このようになる「A fable about summer and children. I am here. You are not alone.」。前半部分は本書の英語題で、後半部分は筆者の太田忠司の個人サイト名である。ここまで知ったとき、本書への評価は完全に逆転した。
本書は素晴らしい。結末で導き出される結論は勿論、構造がとても素晴らしい。ひょっとして太田忠司がずっと書きたかったものを、長い間、暖めてきたものを大放出したのではないだろうか。そう思わせてくれるくらいの、傑作。