- 作者: 東野圭吾
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/08/25
- メディア: 単行本
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特筆したい点はふたつ。作中に「凡人はトリックを積み重ねることで問題を複雑にするが、天才はある一点に手を加えることで問題を飛躍的に複雑化させる」というような科白があるのだが、まさにたったひとつのことをすることで事件の構造を完璧に覆い尽くしているのだ。さらにトリックのスライドも素晴らしい。ミステリを読んでいる人間ほど、このずらしには騙されるだろう。柳生新陰流風に表現するなら転の術理である。
容疑者Xの献身は純愛物とも謳われているらしい。確かに340ページの3行を目にした瞬間、涙が溢れた。その後も度々、泣いてしまったが、考えるまでもなくこの感動は『水の迷宮』の延長線上にあるもの。『水の迷宮』において浪漫こそが真犯人だったならば、『容疑者Xの献身』においては愛こそが真犯人だったのだろう。