雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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1162『となり町戦争』

となり町戦争

となり町戦争

 ある日「広報まいさか」に不思議な記事が載っていた。

【となり町との戦争のお知らせ】
開戦日 九月一日
終戦日 三月三十一日(予定)
開催地 町内各所
内 容 拠点防衛 夜間攻撃
    敵地偵察 白兵戦
  お問合せ 総務課となり町戦争係

 主人公の勤務する会社へ行くには、となり町を通る必要がある。日常生活に支障をきたさなければいいが……と、彼は特に対策も手段も講じないまま開戦日を迎えてしまう。しかし予想に反し、戦争が始まっても町に変化はない。人々はそれまでと同じように生活しているし、剣戟の音が銃声が聞こえるわけでもない。ところが、首を傾げる主人公の元に役所から手紙が届いて……。
 面白かった! 本書は第17回小説すばる新人賞受賞作なのだが、これだけ面白ければ、それは受賞するよと頷ける。五木寛之井上ひさし川本三郎斎藤美奈子高橋源一郎豊崎由美星野智幸吉田伸子……錚々たる面子が、帯で、手放しで褒めているのだが、これも頷ける。だって、面白いのだから!
 少し付け加えておこう。既読の読者に「本書をして面白いと言うのは不謹慎、もっと真摯に受け取るべき」と窘められそうだが、本書は文学としてよりエンターテイメントとして書かれている節が強い(リアリティが存在しないところなど)。したがって「面白い」という評価はむしろ正当だろう。しかし、エンターテインしておきながら、そうしていることを巧妙に押し隠している(リアリティがあるように見せている)のが、本書を引き立てている重要な要素であり、しかもそれが上手く機能しているのだからずるい。