雲上四季〜謎ときどきボドゲ〜

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

しおんの道から紫音の道へ

 将棋を題材に採り上げた漫画しおんの王を読み終えました。
 将棋が好きで、将棋を扱った作品が好きで、それで『しおんの王』を読み始めたのですが、物語が進むにつれ、漫画としての本質が推移してゆくのが見えたような気がしました。将棋を軸にした漫画から、棋士を軸にした漫画へと。『ハチワンダイバー』は言わば将棋バトル漫画ですが、『しおんの王』は棋士バトル漫画と言えるかもしれませんね。将棋が目的ではなく、棋士同士の戦いを描くうえでの手段となっているように感じました。そして、人間ドラマに焦点を当てた後半にこそ魅力を覚えた秋山は、実は今まで将棋が好きだと思いこんでいましたが、ほんとうは将棋ではなく棋士が好きだったのかもしれないと思いました。
 以下、ネタバレします。

しおんの王(8) <完> (アフタヌーンKC)

しおんの王(8) <完> (アフタヌーンKC)

 可愛かったり、凛々しかったりする安岡紫音も好きですが、当然、いちばん好きなのは羽仁名人です。対局の日は、シャツの右袖から腕を通し、ボタンを下から留めてゆく羽仁名人。事情聴取の際、動機を問われ、

 紫音の父親に言われました。
 絶対に娘を棋士にはしない……と。

 と答えた羽仁名人。
 棋界の頂点に君臨し、羨望の眼差しを向けられる羽仁名人は、しかし心に弱い一面を持っており、それを自覚しています。選ばれしものの恍惚と不安を自覚しつつ、自分自身をほぼ完璧に制御しつつ、それでもひとつだけ、非常にシンプルであるにも関わらず、或いはシンプルだからこそ分かっていないことがあるように思いました。それは、彼が孤独であることです。
 何故、羽仁名人は紫音の両親を殺し、彼女が棋士となるように仕向けたのか。それは彼が、自分と対等の存在を欲していたからではないでしょうか。自ら頂きから下るのではなく、登りつめるものを待ち受けるために、全てを奪い去り、将棋だけを残すという試練を課す。何と言う傲慢さ、何と言う王でしょうか。
 いい作品でした。余裕があれば、今度は最初からしおんの王=羽仁名人を主人公として、読み直してみたいですね。

しおんの王(1) (アフタヌーンKC)

しおんの王(1) (アフタヌーンKC)

……しかし、後半、二階堂沙織は信じられないくらい空気だったなあ。