雲上四季〜謎ときどきボドゲ〜

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

哀、秋山真琴戦記、第三章

 それがいつのことか。
 どの時空の出来事なのか。
 現実に起こったことなのか、白昼夢なのかも分からない、ある瞬間のこと──。

秋山舞琴の手記


 その日、私はお屋敷のお庭を散歩していたの。
 奥の座敷で臥せった真琴様を残して、兄さまや姉さまたちは鬼退治に出掛けてしまって、わたしは独りでお留守番ってわけ。ま、どーせ、生まれたばっかりの私なんか、吹けば飛んじゃうくらい弱いから、お庭で独りで薙刀の特訓に励んでいるしかないんだけどね。
 兄さまと姉さまたちが出掛けてから一週間くらい経ったときかな。縁側で、猫のブー太の背中を撫でてたら、いきなり、びゅって風が吹いたかと思うと、お庭の片隅に霧が生まれていたの。辺りは晴れているのに、そこだけ霧がもわもわしていて、なんだかとっても不気味な感じ。他所んちの七輪の煙が吹き溜まりに溜まってるのかなって思ったんだけど、そんなにおいはしないし、それに、なにより急に気温が下がってきたの。
 家の中はシンと静まり返っていて、真琴様もお休みになられてるみたいだし、ブー太を抱きしめて、その霧に近づいてみたの。突っ掛けのまま霧に近づいて、ちょっと触ってみようと思ったら、いきなり、その霧がぶわっと広がって、飲み込まれちゃったの。
 霧に包まれた瞬間、背筋に冷たい手を差し込まれたような気がして、悲鳴を挙げながら慌てて飛び出したの。幸い、何事もなく出られることが出来て、振り返ると霧はどんどん晴れていったんだけれど、そのときに私、なんだか大事なものを霧の中に忘れてきてしまったような気がするの。たとえば、自分の中にいた、全てを諦めがちで、どーせが口癖の、もうひとりの自分をね。
 翌日、兄さまと姉さまが帰ってきたんだけれど、いくら真剣に話しても誰も信じてくれないの。ま、いーけどね!

舞風家との接近遭遇について



 先日、神々と鬼々と人々がいちゃついているので、どれ最強をひとり送り込んでみるかという話をしましたが、どうやら、この世界に介入しているのは秋山だけではなかったようです。しかも、興味深いことに、介入先は同じ世界のはずなのに、戦っている一家の名前は秋山ではなく舞風でした。介入に使っているOSが異なるのか、それともこの世界に介入しようと並行世界がその都度、生成されてしまうのか、舞風の世界では、舞風一族が朱点童子に対して終わることなき戦いに身を投じていました。
 どれ、せっかくですからお互いの一族を養子に出しあいましょうと交渉して、舞風蒔絵ちゃんを養女として招き入れました。見た目は、秋山愛琴ちゃんにそっくりでした。やはり、似て非なる世界ということでしょう。さらに、舞風の世界では、一族の優秀な故人を氏神として奉っており、お願いをして分社頂きました。さらに時間の狭間において、お互いの一家よりひとりだけ魂を重ねるようにして交わることができると聞いて、交神の儀ならぬ魂活の儀を交わしました。奉納点を納める必要がないのは素晴らしいですね。

秋山舞風琴誕生


 かくして、秋山家に生まれたのが秋山舞風琴ちゃんです。
 打倒朱点童子を誓い、幾十年にも亘る戦いに日々に明け暮れる秋山一族ですが、三文字の名前を持つのは、初代から末代に至るまで彼女ただ独りです。両家の期待の星として生まれた舞風琴ちゃんは抜群のセンスを持ちあわせており、秋山家にひとつの槍の奥義を残します。

 うん、ネーミングセンスはないね。

秋山蒔絵の最期

 次元の壁を越えてやってきた蒔絵ちゃんですが、彼女もまた、隣の世界において短命の呪いを掛けられており、二年を待たずに寿命を迎えます。
 別れの時間。布団に横たわる彼女を囲むのは、血の繋がらない他人ではありますが、その面影には、何処か懐かしいものがありました。さらに、いよいよ最期の瞬間。彼女の枕元に、ふたりの人影が立ちました。ひとりは初代秋山真琴。蒔絵ちゃんは見たこともありませんが、銀河系最強の風格を漂わせる秋山家の開祖です。そして、その隣に立っているのは、蒔絵ちゃんの死に目に間に合うよう次元の壁を越えて、飛んできてくれた──…………。