雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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2013年第2四半期オススメ10冊

 やって参りました、2013年4月から6月までの3ヶ月の間に読んだ本の内、面白かった10冊を紹介しますよのお時間です。
 4月は、ほぼ『ワンピース』を読んでいたのと、5月は名古屋に引っ越したりと、いろいろありましたが、なんとか10冊以上、読むことができましたので、今回もオススメの10冊を紹介するという面目を保つことができそうです。
 さて。例の如く、読んだのがこの時期であるというだけで、新刊だけでなく既刊も含むことにご注意ください。

舞城王太郎JORGE JOESTAR

JORGE JOESTAR

JORGE JOESTAR

 真っ先に取り上げたいのは、『ジョジョの奇妙な冒険』のトリビュート「VS JOJO」のひとつ、舞城王太郎による圧倒的大作『JORGE JOESTAR』。
 舞城王太郎は独自のリズムと既存のジャンル小説を破壊し、敷居を越えるような作風が魅力の作家。『煙か土か食い物』でミステリ系のメフィスト賞を受賞しデビューした後、『阿修羅ガール』で純文学系の三島由紀夫賞を受賞。ここ数年は、度々、芥川賞の候補作に取り上げられているけれど、受賞を逃し続けているという状況です。
 そんな舞城王太郎の最新長編は、2つの面があります。ひとつは表面を見て分かる通り、荒木飛呂彦ジョジョの奇妙な冒険』の世界観を踏襲していること。主人公は第1部の主人公ジョナサン・ジョースターの息子にして、第2部の主人公ジョセフ・ジョースター父親であるジョージ・ジョースタージョジョの立ち位置としては1.5部と言えるかもしれません。
 もうひとつの面は、舞城王太郎の既存作品の世界観を踏襲していることです。ルンババ12や大爆笑カレーといった懐かしの面々に加え、九十九十九も登場して、それぞれに推理を披露します。無理やり関連性を見出すならば『世界は密室でできている。』『九十九十九』『ディスコ探偵水曜日』に続くシリーズ第4作と考えることも不可能ではないと思います。
 舞城作品における名探偵は、論理ではなく、文脈を追います。神から名探偵としての役割を任じられている彼らは、適切な証拠集めを行えば、名探偵の機能に則り、事件の真相を見出すことが可能となります。名探偵という役割、そして機能を正確に理解している彼らは、その通りに行動することで、その結果として真相を見抜いたり、あるいは名探偵としての役割をまっとうすることで、物語の必然として、名探偵を殺す運命にある犯人の返り討ちを受け、次の名探偵が解く謎へと姿を変えたりします。
 この一風変わった「考え方」と、歴代『ジョジョ』に登場した、全主人公と全ボスが集結し、繰り広げられる一段も二段も上の推理及びスタンドバトル。これが、傑作でないわけがないです。舞城王太郎を知らないジョジョファンは、この変則的な文体と展開を追うのに苦労するでしょうし、ジョジョを知らない舞城ファンは「えっ? スタンド? 究極生命体? ○巡後の世界? えっえっ?」となるでしょう。
 繰り返しますが、圧倒的大作でした。

ヒラリー・ウォー『失踪当時の服装は』

失踪当時の服装は (創元推理文庫 152-1)

失踪当時の服装は (創元推理文庫 152-1)

 7月にミステリ系イベントMYSCONが開催されるので、それに向けてMYSCONっぽいミステリを読みたいなあと漠然と考えたときに、思いついたのがヒラリー・ウォーの『失踪当時の服装は』でした。なんで、MYSCONと『失踪当時の服装は』が繋がったかは自分でも分からないのですが、まあ、なんとなくです。
 帯に、宮部みゆきの推薦文が書かれていて、どうやら当時、宮部みゆきがセレクトとしたオススメの10冊の内の一冊に含まれていたようです。
 いわゆる海外ミステリで警察小説です。きっと、硬派な出来なんだろうなとビクビクしながら読み始めてみたら、予想と違っていて驚きました(具体的には、あまりゴツゴツしていませんでした))。
 序盤は、ある女性が失踪して、警察に通報されるところまでが丁寧に描かれていて、それから警察が介入し、手がかりを探し始めるんですが、これが、まったく見当たらないんですよね。文字通り「こつ然と消え失せて」しまっているんです。果たして女性は自ら旅に出たのか、誰かに誘拐されたのか、事故なのか、事件なのか、なにも分かりません。変な話、雲をつかむような話です。
 中盤、手がかりがないこと、それ自体が、逆に手がかりになるという謎の展開で、少しずつ加速し始めるのですが、そこから、こう、細い、細い一本の紐を辿って、なんとか真相に辿り着いていくところは素晴らしかったですね。
 派手な作品ではありませんが、地道に、地道に捜査を続けて、ようやく手がかりを発見! という静かな興奮に満ちた作品でした。

貫井徳郎『ドミノ倒し』

ドミノ倒し

ドミノ倒し

 珍しく新刊も読みました、貫井徳郎の『ドミノ倒し』。
 貫井徳郎と言うと『慟哭』『プリズム』の印象が強く、『愚行録』以降は直木賞をターゲットとした作品が多いかなあと思っていて、しばらく遠ざかってしまっていたのですが、電子書籍版が出ていたので読んでみました。
 読み始めはハードボイルド風で、現代に生きる探偵物かと思いきや、美女を前に、ついに胸をチラ見してしまったり、驚きの事実が判明したときに平静を装いきれてなかったりして、凄まじい勢いでメッキが剥がれてゆくのに笑いました。本人は気取っているけれど、回りは全然というギャップが面白く、全体に軽快に進みつつ、その裏でパタリパタリと、不穏な展開を追うのが秀逸でした。
 結末は、どことなく『ひぐらしのなく頃に』を連想させますし、若干、不完全燃焼でもありますが、このハリボテハードボイルドのドタバタ感は、なんとなく天藤真大誘拐』にも通じますし、肩の力を抜いて読める、良い小説でした。

伊坂 幸太郎『夜の国のクーパー

夜の国のクーパー

夜の国のクーパー

 伊坂幸太郎も久々ですね。『ゴールデンスランバー』までは真剣に追っていました。『陽気なギャングが地球を回す』『アヒルと鴨のコインロッカー』『砂漠』と傑作が多かったです。
 ただ『魔王』くらいから、独自の政治観と言うか正義感が見え隠れし始めて、『ゴールデンスランバー』で、それをさらに強く感じて、『モダンタイムス』はその考えの集大成と聞いて、そこで追うのをやめてしまっていました……以後、『オー!ファーザー』と『マリアビートル』だけは例外的に読んでいましたが……まあ、久しぶりの伊坂幸太郎です。
『夜の国のクーバー』、面白かったですね。伊坂幸太郎と言うと、どこかすっとぼけた、感情なストンと抜けていて、フラットで、シンプルな語り口が魅力ですが、なんと、本書の語り手は猫です! この猫が、伊坂幸太郎の飄々とした語りで、人間社会の諸々について「やれやれ」みたいに語るのが、実にマッチしていて、猫小説ベスト10を作れと言われたら、絶対に入れたい一冊ですね。
──ああ、そういった意味では、森見登美彦有頂天家族』に近しいところがありますね。あれも人間社会を舞台に、狸が飄々と事件に巻き込まれたり巻き込まれなかったりする話ですが、『夜の国のクーバー』は猫があくびをしたり、しなかったりする話でした。

武田泰淳『ニセ札つかいの手記 武田泰淳異色短篇集』

 武田泰淳と言えば、その昔『十三妹』を勧められ、書店で確認したところ鶴田謙二が装画を担当していて「ほほう」と思って買ったものの、それから積みっぱなしで、そろそろ7年ほど経過しました。
 本書は、武田泰淳の数ある作品の中でも、特に「異色」と思われる短編を集めたもので、なるほどジャンルに落し込みにくい、なんとも言えない作品ばかりが収録されていました。胡乱な世界観が曖昧に描かれている「めがね」から始まり、時代を感じさせる「『ゴジラ』の来る夜」を経て、男と女や生きることや死ぬことや、そういう諸々が「空間の犯罪」「女の部屋」「白昼の通り魔」「誰を方舟に残すか」で描かれ、そうして最後に収録され、表題作にもなっている「ニセ札つかいの手記」これが傑作でした。
 とにかく源さんがいいんですよ。
 語り手である「ニセ札つかい」にニセ札を渡す源さんが。
 正直「ニセ札つかいの手記」に辿り着くまでは、じゃっかん苦痛でした。面白いは面白いんですが、さすがに文体が古く、やや冗長であるように感じました。けれど「ニセ札つかいの手記」は、最初からめっちゃくちゃ面白かったです。
 語り手は、源さんからニセ札を3枚貰い、使ったら、使った額の半分を源さんにお返しするという約束をしています。つまり、1000円札3枚のニセ札をすべて使ったら、源さんに1500円を返すというわけです。
 何故、そんな変なやり方なのか、源さんは、自分に何をさせたいのか。そんなことを考えながら、少しずつ源さんと親交を深めていく語り手。そして、衝撃的なラスト……!
 ええ、素晴らしい作品でした。この短編を読むためだけに本書を買ってもいいくらいです。

周木律『眼球堂の殺人 The Book』

眼球堂の殺人 ~The Book~ (講談社ノベルス)

眼球堂の殺人 ~The Book~ (講談社ノベルス)

 メフィスト賞受賞作、『ドミノ倒し』と同様、本書も電子書籍で読みました。
 仕事鞄に文庫本ないしノベルスを1冊、入れているのですが、出先で読み終えてしまうことがあって、そんなときのためにiPhoneには電子書籍の積みを最低1冊、用意しているようにしています。最近、持ち運びにおいて難のあるハードカバーは、買う気も、持ち続ける気も失せつつあるので、なるべく新刊ハードカバーが電子書籍になってくれると嬉しいなあと思っている今日この頃です。
 閑話休題
『眼球堂の殺人』懐かしき新本格でした。物理トリック、作中作、クローズドサークル、不可解な設計の館、天才。とにかく新本格的な要素を、てんこ盛りにした作品で、きっとどこかに「新本格かくあるべし」という本があったら、その本を参考にして書いたのだろうなと思ってしまうくらいステレオタイプでした。新奇性が欠片もなく、ここまで教科書通りでいいのか……と頭を抱えたくなりますが、好物なものは好物なのですから、仕方がない。面白かったですよ!!(開き直り)
 とは言え、本書は、本来は出版のレベルには、達していなかったんじゃなかろうか。とも、思ってしまいます。ミステリスピリットに満ち溢れ、期待の持てる作家であることは文面から感じられるので、本書ではなく、もう少し書かせて、そちらでデビューさせてあげた方が作家にとっても読者にとっても幸せだったのでは……? という気持ちが強いです。

拡張幻想(年刊日本SF傑作選)

拡張幻想 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

拡張幻想 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

 さて、ここから先は、怒涛のSFアンソロジィ祭りです。
 まずは第3回創元SF短編賞受賞作、理山貞二「〈すべての夢|果てる地で〉」。電子書籍版で既読だったのですが、再読しました。素晴らしかったです。最初から最後まで、ワクワクと驚きが満載という素晴らしい作品で、文句なしの大傑作でした。それだけに選評を読んで「この作品はSFファン以外には受け入れられないのではないか」という一文には、驚きを禁じ得ませんでした。ただ、その後、ご本人にお会いする機会に恵まれたのですが、聞いてみたところ確かに非常にSFを多く読まれている方で、多くのSFのアイディアを盛り込まれたとのことで、そういった言わば「元ネタ」あるいは「本歌」を知らずに読んでいたわけで、まだまだ本作の本質には、触れられていなかった様子です。ただ「本歌」を知らずとも素晴らしい「本歌取り」はあるわけで、あまり気にする必要はなかろうと自分を納得させることにします。いずれ、もっと、いっぱいSFを読んで、本作に帰ってきたいと思います。
 伴名練「美亜羽へ贈る拳銃」も素晴らしかったですね。伊藤計劃トリビュートとして書かれたとのことで、タイトルからも分かる通り『ハーモニー』の世界観を踏襲して書かれています。これが、また、すごい、すごい、すごい良くてですね……!『ハーモニー』も充分に素晴らしかったんですが、よもすると秋山は「美亜羽へ贈る拳銃」の方が好きかもしれません。ディストピア感に加え、ふたりの想いがすれ違うところや、それが拳銃という破滅的なガジェットに集約されているところなど。『ハーモニー』が好きな方には、是非、読んで頂きたい短編ですね。
 大西科学「ふるさとは時遠く」も面白かったです。高低において時間の流れに変化が生まれ、海辺の町では、ゆるやかに時間が過ぎているのに、山の高いところでは時間がびゅんびゅん過ぎるという設定が、生活感のある日常に、きれいに落とし込まれていて、ノスタルジックな作品でした。小林泰三『海を見る人』が好きなひとは、特に気に入るかもしれませんね。
 円城塔「良い夜を持っている」は、相変わらずのツンデレでした。なんなんでしょうね、この分かるような分からないような曖昧な感じは。読んでいると、ある一瞬において、すべての有機的に接続され、整合性が取れたように見えた「おお、これは傑作では……!」と思うのですが、その一瞬後に、積み木は最初からぜんぜん組み合わさってなく「いや、やっぱり、なに言ってるか、わっかんねーし!」ってなるんですよね……。それでも、本作「良い夜を持っている」は、今ままでに読んだ円城塔の中では、いちばんやさしかったように思います。

原色の想像力 2

 第2回創元SF短編賞応募作を集めた短編集。
 巻頭の空木春宵「繭の見る夢」が、いきなり面白くて驚きました。若干、文体がこなれてない感があるのと、途中が冗長かなという感じはしましたが、アイデアは非常に鮮烈で、虫を愛する姫君と、文字を食らう虫という怪奇と、あの伝説の陰陽師と、いろいろな要素が上手いこと絡み合っていて、完成度の高い短編に仕上がっていました。
 志保龍彦「Kudanの瞳」も、かなり好みの物語でしたね。件という未来を予知する、空想上の存在を現実のものにしようという科学的な実験と、時間を超えるというSF的なアイデアが、ちゃんと握手していました。この手の、異種族間の交流とか、時間を超える的な要素は大好きなので、あの手紙のシーンは、もう全身鳥肌でした。
 酉島伝法「洞の街」第2回創元SF短編賞の大賞を受賞した酉島伝法による受賞後第1作。これは、驚きました。デビュー作同様に、ドロドロして気持ちの悪い、ヌメヌメしていて、なんか触ったら糸を引きそうな、生々しさを残しつつ、なんだか読みようによっては爽やかな青春小説に化けていて驚愕です。こんなに気持ち悪いのに爽やかなのなんで! って異議を申し立てたい感じです。なんて言うか、下水道に流された山尾悠子を拾い上げたら、酉島伝法になっていた。みたいな。

NOVA 8

 SFアンソロジィ祭り、最後の1冊は大森望責任編集『NOVA 8』です。
 残念ながら『NOVA』は10巻で最後とのことで、残念極まりないです(残念の重複
 飛浩隆「#銀の匙」「曠野にて」天才詩人アリス・ウォンの誕生秘話と五歳の頃を描いた短編。やがて描かれる大シリーズの一部分を構成するであろう作品だと思われますが、さすが飛浩隆、これだけで、ひとつの物語として、きちんと完成されているのが素晴らしいですね。特に「#銀の匙」において描かれているライフログに関する奇想は、確かに人類が、やがて到達するかもしれない、ひとつの技術的成果であると同時に、ディストピア社会の始まりだなあという感じで、とても美味しいです。
 片瀬二郎「00:00:00.01pm」も抜群に面白かったですね。片瀬二郎は『原色の想像力 2』に掲載された大森望賞の受賞作「花と少年」は、さっぱり分からなかったのですが、『NOVA 7』に掲載された受賞後第一作の「サムライ・ポテト」は、涙が止まらない傑作で、時の止まった世界を舞台とした「00:00:00.01pm」もゾクゾクする一作でした。片瀬二郎は、いま、間違いなく面白い作家のひとりで『NOVA 9』にも短編が掲載されているので楽しみです。早く短編集が発売されて、もっと注目されるといい!
 他には松尾由美「落としもの」が素晴らしい猫小説だったのと(『夜の国のクーバー』で猫小説に目覚めたひとは「落としもの」も必読です)、青山智樹「激辛戦国時代」、山田正紀「雲のなかの悪魔」も面白かったです。

小野卓也『ボードゲームワールド』

ボードゲームワールド

ボードゲームワールド

 最後は小説ではなく、敢えて言うならガイド集。
 テーマを定めて、そのテーマとの一致度の高いボードゲームを紹介している一冊で、非常に出来が良いです。ボードゲームを遊ぶひとは、これを読むと遊びたいボードゲームが増えて困りますし、ボードゲームを遊ばないひとは、いわゆるインテリア紹介本として読んでも、なかなかに面白いと思います。
 面白いボードゲームについて論じるとき、しばしば、そのゲームが表現しようとしている世界観や、ゲームを通して再現される現象などを評価する「ストーリー派」と、バックストーリーなんてどうでも良くて、単純にゲームとして面白いかどうか「システム派」の2派がいると言われています。秋山は典型的な前者で、特に物語が感じられるゲームが好きです。
 テーマとの一致度の高いゲームを紹介しているということは、テーマ性を重視したゲームが多いということで、つまりストーリー派は、みんな読めばいいと思います。

終わりに

 興が乗ったので、今回は、非常に多く書いてしまいました。
 四半期ベスト10系のエントリで、こんなに長く書いたのは初めてではないでしょうか。最近、本の感想は読書メーターでしか書いていないので、欲求が溜まっていたのかもしれないですね。
 次のクォーターも面白い本に出会えますように。
 皆さまも、どうぞ素敵な四季を。