雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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時の止まった世界での息もつかせぬ攻防『刻刻』が傑作でした

 傑作というのは、こういうのを言うのでしょうね。
 堀尾省太の『刻刻』の感想です。ネタバレには配慮しています。

刻刻(1) (モーニングコミックス)

刻刻(1) (モーニングコミックス)

時の止まった世界

 タイムスリップやループ、時間への干渉を扱った作品は全般的に好きですが、『刻刻』はそういう意味でも秋山の好みにジャストミートでした。
 系統としては、時間停止ですね。
『ジョジョの奇妙な冒険』においてDIOが「ザ・ワールド!」と叫ぶと、何秒か時間が止まり、その時の止まった世界をDIOだけが自由に動き回ることができますが、『刻刻』においては、止界術(しかいじゅつ)という術を使うと、その瞬間に時が止まり、作中で言うところの止界(しかい)を好きに活動できるようになります。
 リアリティのある筆致で、停止した現代日本が描かれているので、雰囲気的には片瀬二郎の「00:00:00.01pm」(『サムライ・ポテト』所収)に近いかもしれません。

サムライ・ポテト (NOVAコレクション)

サムライ・ポテト (NOVAコレクション)

止界術の発動と止界での接敵

 登場人物が概ね、等身大であるというのが良いところです。
 主人公の佑河樹里は就職活動中の28歳で、隠居済みの祖父、無職の父、無職の兄、シングルマザーの妹、妹の息子と同居しています。
 もう、この時点で良いです。
 死んだような目でテレビを見ているんだか見ていないんだか分からない無職の父と無職の兄の駄目さが、最高に良いです。


 で、この家族の希望である幼稚園児が誘拐されるところから物語が始まります。
 まあ、大変なことですよ。
 この子どもを何とかして育て上げることが、この家族を繋ぎ止めている、みたいなところがありましたからね。
 この苦境をいかに脱するか。
 そこで、祖父の取った手段が止界術、なわけです。
 時の止まった世界ならば、人質の救出を容易でしょうから。
 尤も、この目論見は、すぐに瓦解することになります。
 相手もまた、止界で待ち受けていたのです。

とにかく先が見えない

 そもそも止界術とは何なのか? 誘拐の目的は何なのか? 止界に居続けるとどうなってしまうのか? 止界をさまよう謎の存在の正体は?
 読者にとっても分からないことだらけですが、それは作中のキャラクタたちにとっても同様で、彼らもどこまでがセーフで、どこからがアウトかを実験しつつ、手探りで戦ったり、隠れたり、逃げたり、作戦を練ったりします。
 この記事のタイトルに、なんとなく「息をもつかせぬ攻防」とつけてしまいましたが、実際には、白熱のバトルシーンは少なめです。どちらかと言うと頭脳戦です。しかも、世界全体が停止しているので、ものすごい静寂感があります。
 最終的に物語がどう転ぶのか。この先、どれだけの展開が待ち受けているのか。まったく先が見えない薄暗闇を、転がり落ちていくような体験です。

終わりに

 全8巻、適度な分量です。
 最初から最後まで、ずっと面白いが継続し、最後の最後まで面白かったです。オススメですよ。

刻刻(8) (モーニングコミックス)

刻刻(8) (モーニングコミックス)

 8巻の表紙、良いですよねえ……。