雲上四季

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

946『慟哭』

慟哭 (創元推理文庫)

慟哭 (創元推理文庫)

 最初に思ったのは、また新興宗教か、また幼女誘拐殺人か、また警察内の確執か、だった。それらが実に固い筆致で仰々しく書かれていることに驚き、どうしてこれが売れたのかと頭を抱えたが、初版の発行年月日を調べたところ――1993年10月、なんと十年以上前の本である。少し前に、書店に文庫版が高々と積み重ねられ、書店員が大々的に売り出していたように記憶しているのに、あれだって、五年以上は前だ。とは言え、本に寿命などない、素晴らしい本はどれだけの年月を経ても素晴らしいし、使い古されたテクニックやトリックを使っている本も、素晴らしければ素晴らしい。そう思って読んだ。
 読了から一夜明け、本書が秋山にとって重要な意味合いを持ち始めていることに気がついた。本書は単一のトリックに頼っており、人によっては容易く見抜くこともできるだろう。そして本書が描こうとしているのも、タイトルによって指し示されている概念だけで、新興宗教や幼女誘拐殺人、警察内のキャリア・ノンキャリアの確執にも、それぞれの問題点を指摘するだけで解決やその示唆は、ほとんど行っていないように読める。
 数多くのミステリを読んでしまい、本書に仕掛けられたトリックを見抜けるようにならないうちに読んでしまうべきだと思うが、秋山のように本書で「驚くことの出来なかったミステリを評価できるか?」という壁に当たるのも、いいかもしれない。