目の前には、延々と連なる茨の道。振り返れば、茨を踏み抜いた足から流れ落ちた血が、点々と続いているのがみえる。もうふくらはぎから下は、すっかり血にまみれていた。一歩、踏み出すたびに突き抜ける激痛、噴きだす血と共に力も抜けてゆき、膝を突いてしまいそうになるが、なんとかして耐える。でも、これ以上は……歩けない。
「道があるだけましじゃねえか」
力強い声。
隣に立っていた大男に首根っこを掴まれて、無理やりに直立させられる。
驚いたことに、男は全身に傷を負っていた。手足から顔面に至るまで、背中以外のすべての箇所に、男は傷を負っていた。
「見えるか、俺の前に立ち塞がっているものが」
隣の道に目を向ける。いや、道は男の背後にしかなかった。男の前には、ただ――、
「茨の壁だ」
そう、複雑に絡まりあった茨が柵となり壁となり、男の前に立ち塞がっていた。
男は「ハッ!」と笑うと茨の壁に片腕を突きこんだ。塞がりかけていた傷が開き、血飛沫が舞う。それでも男はその動きを止めない。両手両足を駆使して、茨の壁を薙ぎたおす。
……気がついたとき、男は遠く向こうに立っていた。
「どうしたよ、早く追いついてこいよ。お前の前には道があるんだから」
男の声が聞こえるのと同時に、足の傷が治ってゆくのを感じた。そしてそこから抜け落ちていた血液と力も戻ってきた。
踏破する。
痛みは確かに感じたが、それはもう歩みを止めることに対する理由にはならなかった。