雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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LOST MAN

「嵐は過ぎ去った。船は壊れていない、しかし海図はどこかに吹っ飛んだ」
 ぼくは、ぼくに報告した。
羅針盤は飛んできたワインボトルでずれて、方位磁石もどこかに消えちまった」
 ぼくも、ぼくに報告した。
「さて、どうしようか」
 ぼくは、困る。
 夜の大海原は、星と月の下、ぬめぬめと黒く照り輝いていた。
 ぼくは、ひとりだ。
「どうしようもないね」
 ぼくは、ぼくに答える。
「うん。ぼくもそう思う。でも、……諦めちゃ駄目だ」
 ぼくは、言った。
「諦める諦めないじゃなくて、もう、どうしようもないだろう」
 ぼくは、言い返した。
「そうかな?」
 ぼくは、微笑んだ。
「見上げてごらんよ、星空を」
 ぼくは、空を指差した。
「あれが北極星、ぼくらを導いてくれる星だ。あの星を目指そう」
 ぼくは、天を仰いだ。
「なるほど……これは盲点だったな、当たり前のことであるだけに」
 ぼくは、感心した。
「行こうか?」
 ぼくは、訊ねた。
「ああ、行こう。あの星の元に」
 ぼくらは出発した。


『星をさす指』622文字