「嵐は過ぎ去った。船は壊れていない、しかし海図はどこかに吹っ飛んだ」
ぼくは、ぼくに報告した。
「羅針盤は飛んできたワインボトルでずれて、方位磁石もどこかに消えちまった」
ぼくも、ぼくに報告した。
「さて、どうしようか」
ぼくは、困る。
夜の大海原は、星と月の下、ぬめぬめと黒く照り輝いていた。
ぼくは、ひとりだ。
「どうしようもないね」
ぼくは、ぼくに答える。
「うん。ぼくもそう思う。でも、……諦めちゃ駄目だ」
ぼくは、言った。
「諦める諦めないじゃなくて、もう、どうしようもないだろう」
ぼくは、言い返した。
「そうかな?」
ぼくは、微笑んだ。
「見上げてごらんよ、星空を」
ぼくは、空を指差した。
「あれが北極星、ぼくらを導いてくれる星だ。あの星を目指そう」
ぼくは、天を仰いだ。
「なるほど……これは盲点だったな、当たり前のことであるだけに」
ぼくは、感心した。
「行こうか?」
ぼくは、訊ねた。
「ああ、行こう。あの星の元に」
ぼくらは出発した。