「どうして、空はこんなにも美しいのに、誰も見ようとしないんだろう」
「見てるじゃない。僕らが」
放課後、屋上に呼び出されてみれば、君は金網に引き寄せられるようにして夕陽を眺めていた。西の空に掛かる雲は、下の方が緋色に上の方が藍色に彩られている。彩雲と言うそうだ。
鉄製の重い扉のそばに君の鞄を発見する。ジッパが最後まで閉じられてなくて、端からはペットボトルが顔を覗かせている。君の鞄に寄り添わせるようにして、僕の鞄をくっつけてあげる。仲良く手を組んで夕陽を望む、若いカップルのように。
「あ、隣に立つのは構わないけど。私の顔は見ないでね」
「うん」
誤ってでも見ないように、君に背を向けるように、僕は右足を引いた。
しばらく。君と二人で、同じ夕陽と街を見る。
悪くない。
グラウンドを突っ切って走っていくのは下級生だろうか。先頭のひとりがボールを蹴っている。その先の正門の前では、誰かを待っているのか本を読みながら立っている女子がいる。さらに遠くに目を向けると、家々があり、アパートがあり、駅前に並ぶビルがある。地平線や水平線というのは、どういうものなのだろうか。写真でしか見たことがないけれど、ビル群に沈んでいく夕陽とは、まるっきり別物であるような気がする。