雲上四季〜謎ときどきボドゲ〜

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新しい水脈〜ライトノベル三大奇書


 海燕さん(id:kaien:20060925:p2)がライトノベル三大奇書について述べていました。ウィンドバードさん(id:kazenotori:20060912:1158030172)の挙げたライトノベル三大奇書が念頭にあるものと思います。
 秋山の興味はどちらかと言うとライトノベル三大奇書と言うより、ミステリ三大奇書四大奇書、アンチ・ミステリー、黒い水脈にあるのですが、こちらは未読の本が多いのと、調査が滞っているので、ちょっと行き詰まっている感じです。
 不完全な認識ではありますが、秋山が思うにミステリにおける奇書は空前絶後という文字で代替できます。つまり、それ以前にそれに類するミステリはなく、またそれ以降もそれを越えるミステリは存在しない、ということです。三大奇書小栗虫太郎黒死館殺人事件』、夢野久作ドグラ・マグラ』、中井英夫『虚無への供物』に関しては、この条件を満たしています。おどろおどろしい『黒死館』を越える異形、著者が生涯を賭して著した『ドグラ・マグラ』を越える狂気、ガジェットをふんだんに取り入れた『虚無への供物』を越えるミステリ、これらはかつても今、そしてこれからも三大奇書以外にはないでしょう。
 ここから先はやや不明確になるのですが、三大奇書を黒い水脈として、その四作目に竹本健治匣の中の失楽』が、五作目に山口雅也『奇偶』があると言われています。これだけを捉えると黒い水脈=三大奇書(もしくは四大奇書・五大奇書)ですが、一方で黒い水脈というのはエドガー・アラン・ポーに端を発し、久生十蘭半村良にも流れているものと言われているので、いわゆるジャンル名でもあるようです。諸説紛々としています。
 ライトノベル三大奇書に話題を移す前に、一般的に奇書にどのようなイメージが抱かれているか。箇条書きにします。

  • 記念碑的作品。
  • 読みにくい
  • 脱線や薀蓄が多い。
  • 過剰な演出。
  • 作中作が用いられている。
  • 意外な犯人、もしくは結末。
  • 意外に地味なトリック。

 三大奇書のすべてにこれらが適用されるわけではないですが、二作以上を含むものを取り上げてみました。
 以上を踏まえて、改めてライトノベル三大奇書を考えてみると、ウィンドバードさんと海燕さんの挙げた三作には、やや首を捻ってしまいます。ただ単にライトノベルというレーベルの中だけで異質であったり、黎明期を支えたであるとかで奇書の称号を冠するのには相応しくないのではないかと思います(え、奇書って言葉に幻想を抱きすぎですか?)。そんなことを考えながら、三作、選んでみました。秋山版ライトノベル三大奇書です。

黒い季節

黒い季節

ラスト・ビジョン (電撃文庫)

ラスト・ビジョン (電撃文庫)

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社ノベルス)

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社ノベルス)

 上から順番に説明します。
 まずは第一回スニーカー大賞金賞受賞作、冲方丁『黒い季節』1996年刊。これは仰々しさ、不気味さという点においては、ケイオスヘキサ三部作時代の黒古橋さえ越えているでしょう。文芸というフィールドを相手にしてもやっていけるのではないかと思える暗黒を漂わせています。しかも、これが最大のポイントなのですが、手に入りづらい! 復刊されない! というのがあります。
 次に第七回電撃ゲーム小説大賞奨励賞受賞後第一作、海羽超史郎『ラスト・ビジョン』2001年刊。これも複雑さ、難解さという点において申し分ないでしょう。緻密に計算され絡み合った時空間のほつれを解くことによって見えてくる真実。メタ・フィクショナルな仕掛けもありますし、奇書の資格は充分でしょう。それになにより、この作品を最後に消息を断ち、海羽超史郎スレや海羽超史郎コミュにおいて復活を待望されているのがいかにも、です。
 最後は第二十三回メフィスト賞受賞作、西尾維新クビキリサイクル』2002年刊。実はこの作品を三大奇書に含めるかどうかは迷いました。ひとつはアニメ調のイラストが表紙を飾っているものの講談社ノベルスから刊行されている点、もうひとつは本書がライトノベルよりもミステリの系譜に名を列ねることが多い点。悩みましたけれど、谷川流涼宮ハルヒの憂鬱』や浅井ラボされど罪人は竜と踊る』を始め、西尾維新の影響を受けているであろう作家を考えると西尾以前・西尾以後というのがあるのかもしれず。『虚無への供物』が後の新本格を生んだように、『クビキリサイクル』もまた奇書に相応しい作品ではないかと思いました。
 と、言うわけで秋山なりにライトノベル三大奇書を挙げてみましたが、万人にとって納得のゆくラインナップではないでしょう。そもそも、三冊に絞るのが難しいのです。ライトノベル三大奇書を決めようという試み自体が、無理難題、もしくは無粋であるかのような気もしてきました。いっそ黒い水脈に倣って、新しい水脈とでも名乗ってライトノベル史において有意義だと思われる作品を全部その中にぶちこんでいけばいいと思います。