雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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1133『生きてるだけで、愛。』

生きてるだけで、愛

生きてるだけで、愛

 第135回芥川賞候補作。書き下ろし掌編「あの明け方の」併録。
 過眠・メンヘル・二十五歳……徹夜で、鬼畜な画像が無料で見放題のサイトにアクセスし「人間なにがあったらここまで堕ちれるんだろう。っていうかあたしもハタから見ればいい勝負なのか」と呟いてしまう主人公の日常と挑戦。
 このときの候補作の中では、この作品が一番好きで、受賞してくれると嬉しいなあと思っていたことを再読しながら思い出した。読み直して改めて思ったが、やはり素晴らしい。終盤、こんなシーンがある。

「いいけど」津奈木が少しだけためらった口調で続ける。「その話はここで、全裸じゃなきゃ無理?」
「ごめん。ここで全裸じゃなきゃ無理だわ」

 そう! 真冬のマンションの屋上で全裸でなければ語れないような話だってあるのだ! したがって、秋山がどういった経緯で感動したか、それをここには書くことはできない。実際に読んでみて味わってもらいたいと思う。書き下ろしの「あの明け方の」はほんの二十ページほどの作品で、書店で立ち読みできてしまうほどの長さ。今回、秋山がわざわざ買ったのは、劇団、本谷有希子の『遭難、』を観にいった折りにサイン本が販売されていたから。本書もさることながら『遭難、』も素晴らしかった。今までに観てきた本谷有希子の中では群を抜いてベスト。……傑作選入りかなあ。いや、止めておこう。本谷有希子の著作は本書しか読んでいないし、他にもっと面白いのがあったら傑作選が本谷有希子で埋め尽くされてしまう。