ビジネス書の編集者であるらしい方が「推理小説を書くのに、こんなに『ルール』があるって知ってた?」と軽い調子で、ノックスの十戒とヴァン・ダインの二十則を紹介されています。
これ自体は特に驚かされませんでした。実際、ミステリ読みでなければ、十戒も二十則も知らずに暮らしていけることでしょう。まあ、でもミステリ系のエントリと言えるのでとりあえずブクマしておくかと思ったら、思っていた以上にブックマークされていて驚きました*1。実際にブクマコメントその他を見ていってみるとネタ扱いしている方もいたのですが、マジレスされている方もいてさらに驚きです。
ま、そんな感じで十戒二十則の現在、そして本格ミステリとは何か、です。
最初に結論。
ノックスの十戒とヴァン・ダインの二十則はフェアであるための指針です。
ノックスの十戒とヴァン・ダインの二十則はどうして作られたか
ざっくり言ってしまいますけれど、フェアの条件ってひとそれぞれじゃないですか。
読者「ずるい! アンフェアだ!」
作者「いや、フェアだね。俺はずるしてない」
読者「ずるしてるよ! ばっちゃに言いつけてやる!」*2
明確に定義されていないうちは、うえのようなやりとりが頻発していたわけです。
で、これに終止符を打つために、ロナルド・ノックスとヴァン・ダインが、フェアであろうとしたときに守るべき指針として、それぞれ十戒と二重則を考案したのです。とは言え、ミステリは必ずしもフェアでなければならないとは限りません。と言うかミステリもエンターテイメントの一種なので読んで面白ければ問題ないわけです。ゆえにフェアであることよりも面白くあることを優先したミステリは、余裕でこれらを破っています。ノックスとヴァン・ダインの著作にも破っている作品があるくらいです。
また、それに最終的にフェアでありさえすれば問題ないので、SF的なせかいを舞台としたミステリや、幻想的なせかいを舞台としたミステリは昔から山ほどあります。現代に限ったことではありません。それに、そもそもこれらは1928年に作られたもので、現代においては必ずしも適用されるとは限りません。なのでばっちゃがちょっと言ったことに対して、過剰反応が起きているかなと思いました。
広義のミステリと狭義のミステリ、そして2種類の本格ミステリ
Erlkonig 1)mystery, 1)創作 広義のミステリーと狭義の推理小説は区別した方がよさげ。伊坂幸太郎さんとか恩田陸さんとか、明らかにミステリーと呼ばれながら推理要素がまるっきり切り離されている作品はけっこう一般的に存在しますし。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/sirouto2/20071019/p4
sirouto2さんのエントリにid:Erlkonigさんが面白いブクマコメントを寄せていたので紹介します。
広義か狭義かと言うのは、ちょっと面白い視点だなと思いました。ミステリ内においてはどちらかと言うと、本格かそうでないかという分類をされることの方が多いですね。とは言え、本格の定義はひとによってバラバラなので、へたに口を出すと論争になりかねないのですが、本格について書かれたものを読んでみたり、実際に「本格とは何か?」と問いかけてみたことがあって、ある傾向はあるなと思っています。
具体的には大きく分けて、2種類の本格ミステリがあるように考えています。
1)全ての証拠が提示され、解決編の前に推理することが可能な作品*3。
2)謎が提示され、それが解明されることが主眼となっている作品*4。
前者のポイントは解決編の前に推理ができること、後者のポイントは謎と解明が主眼になっていること、ですね。したがってErlkonigさんが挙げている伊坂幸太郎と恩田陸の著作の大半は、確かに本格とは呼びづらいと思います。実際にランキング本を見てみると、このミステリーがすごい! において伊坂幸太郎と恩田陸は比較的、上位に入ってくることが多いですが、逆に本格ミステリ・ベスト10においては、このミスほど振るってはいないように見えます。
まあ、結局、何が言いたいかというと
十戒と二十則がフェアであるために作られた指針であることを踏まえ、かつミステリが必ずしもフェアでなくとも構わないという2点を承知していないと、突拍子もないことを言うはめになると思います。なにも清涼院流水や竜騎士07を引き合いに出す必要はないでしょう。80年以上も前にアガサ・クリスティが『アクロイド殺し』を書いたときから自明なのですから。
余談
十戒と二十則の現代版として島田荘司が『本格ミステリー宣言 2 ハイブリッド・ヴィーナス論』の序章で7つの項目を、そして清涼院流水が『ジョーカー』の作中にて「推理小説の構成要素三十項」を挙げています。どちらも手元に本がないのですぐに引用できませんが、近いうちに再入手して紹介したいと思います。これがまた今風に書かれているだけに、どちらに書かれていることも説得力があり、納得できるのですよ。

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