雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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古典部、美術部、そして思索部

 文学フリマにていただいたNth Libraryさん長屋言人『思索部活動レポート』を読みました。
 A6判*1にピンク色の表紙と、てのひらに収まる素敵な本です。内容を一言で表現するならば学園百合ミステリ。希依子とさつきのふたりが暇さえあれば手を繋いだり、見つめあったり、キスしたりして、邪魔が入ったときにだけ推理しています。思索部というフレーズを初めて聞いたときは、霧生康平「僕らは、ほんの少しだけ生きている」を思い返しましたが、あそこまで哲学的ではなく、思索部という名前は本編に彩りを加えている程度です。以下、寸評。
「紅葉抄」メインキャラクターの紹介用と思われる書き下ろし。しかし、ふたりが愛し合っているという情報が提示されるだけなのでやや物足りません。紹介に尽きるのであれば、もう少し紹介に徹し、プロローグとして扱うのであれば『キノの旅』や『しずるさん』シリーズ、『GOSICK』に見られる手法で見せると良いのではと思いました。
「人形はなぜ自殺する」首を吊った人形が発見されるという事件現場は奇想に溢れ、たいへん素晴らしいものだと思いましたが、結末がすこし幻想的に過ぎるかなと思いました。人形が他殺ではなく自殺だという点において、もう一歩、突き詰められていたらかなり面白いものになっていたような。
「暗号のコンフリクト」図書館を舞台とした暗号ミステリ。閉架図書という非日常的な空間を舞台になっていて、雰囲気は抜群なのですが、残念ながら、同じトリックの作品を既に読んでしまっていました。途中で気づいたので、ロジックに注目して見ましたが、伏線や落ちもいまひとつでたいへん勿体ない。
「学園祭の脅迫者」これは素晴らしいです。米澤穂信クドリャフカの順番』、久住四季トリックスターズ C』に倣ったのか、学園祭中に発生した事件を追うという青春ミステリ。果たして犯人は誰なのか? いかに成し遂げたのか? そしてその目的は? フーダニットとハウダニットホワイダニット、真相が明かされた瞬間に、このすべてに納得のゆく解答が見えるという中々の出来栄え。真相を解いた名探偵の行動も、なるほどと頷かせるものですし、二重三重に張られた伏線が功を奏していました。

*1:つまり文庫本サイズ。