- 作者: ミステリマガジン編集部
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/11/22
- メディア: 単行本
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本書はSFとミステリというジャンル小説に特化した早川書房が『SFが読みたい!』に続くかたちで出したミステリのランキング本です。ただ、ミステリのランキングと言えば、宝島社主催「このミステリーがすごい!」、原書房主催「本格ミステリ・ベスト10」、文藝春秋主催「週刊文春ミステリーベスト10」がすでにあるので、事実上、四番煎じということになります*1。恐らくは他社主催のランキングと差異化を図るために発売時期を早めたり、新訳や文庫化、再刊も投票対象とするといった特徴づけを行ったと思うのですが、意地の悪い見方をするとレイモンド・チャンドラー著村上春樹訳『ロング・グッドバイ』を投票対象に加えるためだったかな、と。ただ、実際にランキングを見てみると『ロング・グッドバイ』を除くと、ほとんどがふつうの新刊なので、投票対象を広げたのは死票を増やし、ランキングとしての精度を落とすことになったかなと思います。
とは言え、ランキング本が増えますと、その分、作品が評価される可能性は上がりますし、ジャンル読者からすればお祭りの回数が増えるので、今後とも早川書房には是非とも続けていただきたいなと思います。
なお既読率は海外部門は20作中2作、日本部門は20作中6作でした。
以下、ランキングのネタバレ。
ランキング雑感
海外部門は上位4位まで早川書房刊の作品で占められています。さすがと言ったところでしょうか。
対して日本部門に目を向けると7位の岡井崇『ノーフォールト』と13位の三咲光郎『砲台島』だけで、特に前者は識者による投票数はゼロで、読者投票だけなのでちょっと勘繰ってしまわないでもないです。
日本部門に関しては、本格、社会派、警察とミステリのなかでも様々なジャンルが満遍なく揃っていて、悪くないかなと思いました。ただ、締め切りが早かった分、このミス本ミス狙いだった10月刊の作品がごっそりないため、そこはちょっと残念に思いました。
ちなみに秋山が投票したのは2位の桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』と13位の米澤穂信『インシテミル』、そしてランク外の北山猛邦『少年検閲官』でした。もう少し早く三津田信三『首無の如き祟るもの』を読んでいれば、もしかしたら『赤朽葉』ではなく『首無』に投票していたかもしれません。そうすれば2位と3位が逆転していましたね……。
ジャンル別サマリー
ランキングと書評以外では、評論家によって2007年に刊行されたミステリが、ジャンル別に論じられたコラムが非常に充実していたように思います。
杉江松恋による「海外部門本格・コージー」、千街晶之による「本格」、笹川吉晴による「サスペンス・ホラー」、大森望による「ジャンルオーバー」、タニグチリウイチによる「ライトノベル」などが特に面白かったです。
タニグチリウイチが取り上げていた作品が興味深かったので、以下、箇条書きにしてみます。
・久住四季『トリックスターズ』
・入間人間『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』
・杉井光『神様のメモ帳』
・上遠野浩平『しずるさんと無言の姫君たち』
・桜庭一樹『GOSICK』
・野村美月『“文学少女”と慟哭の巡礼者』
・友桐夏『楽園ヴァイオリン クラシックノート』
・辺見えむ『ビジュアル7』
・大迫純一『神曲奏界ポリフォニカ』
尾関修一『麗しのシャーロットに捧ぐ』と上月雨音『SHI-NO』が取り上げられていないことに一抹のショックを覚えつつ、辺見えむって誰だろうと首を傾げました。ビーズログ文庫と言うことで、完全にアンテナから外れていました。調べてみると、id:kirisakinekoさんもチェックしていないようですし、気になりますね。
……後、いま大森望の担当した「ジャンルオーバー」を読み返してみましたが、ここにあるのって殆どがSFですね。これならむしろSFミステリでまとめた方が良かったのでは? というぐらい。参考までにこちらも箇条書きにしてみます。
・桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』
・佐藤友哉『1000の小説とバックベアード』
・東浩紀+桜坂洋『キャラクターズ』
・円城塔『Self-Reference ENGINE』
・伊藤計劃『虐殺器官』
・佐藤亜紀『ミノタウロス』
・冲方丁『マルドゥック・ヴェロシティ』
・藤崎慎吾『鯨の王』
・林譲治『進化の設計者』
・ジョー・ホールドマン『擬態─カムフラージュ』