『文學界』2008年10月号に掲載されている高原英理「グレー・グレー」を読みました。
出だしは中々に面白かったです。ちょっと引用してみます。
灰色だ。仰向けば水滴が顔のはしばしをつつく。
温度は去っている。
傘がないので頭から肩からもらう。
着替えてはいないが、非難する者もない。歯を磨いたのは習慣だ。
一足、一足、そう言えば靴も、取り換えるか。今はよい。
端的に言って、読みにくいですよね。
とは言え、読みにくい作品は、概して面白い作品であることが多いので我慢して読んでみたところ、やがて慣れました。もしくは、著者の集中力が切れたのか、文章がいたって一般的な、読みやすい、平易なものになりました。その点は、そう、ちょっと残念だなと感じました。最後まで読みにくい文章を、意図的に維持してくれたら良かったのですが、途中からふつうになってしまうのであれば、最初からふつうで良かったんじゃないかしら、といじけてしまいます。
と、言った具合で、文体に対する満足度は、今ひとつです。そして、世界観と物語に関しても今ひとつでした。と言うと、語弊があるかな。世界観は興味深かったです。いわゆる、起き上がり、なのでしょうか。死んでしまった人間が、腐敗しつつも、生きて動き回っているのです。荒れ果てた雰囲気や、頽廃した腐臭が文面から漂ってくる……という程ではありませんでしたが、仄暗い、なんだか都会の明るい夜空に照らし出されたような風景が描き出されていました。
そんな具合で、世界観はわりあい面白かったのですが、やはり文体と物語には不完全燃焼の念を禁じえません。
引き続き平山夢明と福澤徹三も読む予定。しかし『文學界』に作品が掲載されたってことは、もう立派な芥川賞候補作家候補ですね。平山夢明が芥川賞作家になったら、時代が変わりそうな予感。
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