沙村広明『ブラッドハーレーの馬車』を読みました。
- 作者:沙村 広明
- 発売日: 2007/12/18
- メディア: 単行本
読まれた方ならお分かりかと思います。あの孤児院から集められた少女、パスカの羊がどのような末路を行き、どのような最期を迎えることになるのか。あれを、覚悟なしに受け止めてしまった瞬間の衝撃がどれほどのものか。いやあ、最悪でしたね。
以下、ネタバレを含むので、続きを読むに入れます。戸梶圭太『自殺自由法』のネタバレもしちゃうよ!
- 作者:戸梶 圭太
- メディア: 文庫
日本という国が自殺を許容し、あまつさえ自逝センターなどという、謎の建築物が用意され、そこに行けば容易に自殺することができるのです。登場人物たちは人生に疲れたり、流行に乗るために、センターの内情を調査するために、それぞれに事情を持って自逝センターを訪問し、そして戻ってきません。
小説の結末において、この自逝センターの内部はかなり酷い環境であったことが明かされます。「楽に自殺させてくれる」という広告は真っ赤な嘘で、何時間も裸のまま放置され、準備が出来た後は、巨大なすり鉢のようなもので、全身を文字通り粉にされてしまう……かどうかは忘れましたが、とにかく悪趣味極まりない施設であることだけは確かです。
で、『自殺自由法』の何が嫌いかって「楽に自殺させてくれる」と喧伝しておきながら、全然そんなことがないことですよ。それと同じような嫌らしさが『ブラッドハーレーの馬車』にもありました。
『ブラッドハーレーの馬車』において、少女たちは、ときに孤児院の生活から救われるために、ときに脚の怪我を治すために、ときに家族の行方を知るために馬車に乗るわけです。その馬車がどこに向かうとも知らず、そして戻って来れないとも知らずに。
もう、それが嫌で嫌で堪りませんでした。希望を得たはずが、絶望一直線ルートというのが! まったく信じられません、最悪です。
特に嫌らしいと感じたのは第3話、第5話、第7話ですね。この3話は、いずれも馬車に乗るまでが物語で、その後を描いていません。したがって、この3話を雑誌掲載時に単一の作品として読んだ読者は、下手をすると、これらの作品が「希望に包まれた(ちょっと陰鬱だけれど、基本的には)いい話」と思いかねないわけです。さらに、これらの3話を短編集のなかの一編として読んだ読者は、彼女らのその後を脳内で補完するでしょうから、実際以上に、これらの物語が悲惨なものとして思えます。もう無限に苦しい作品であるわけですよ!!
と言うわけで、ほんとう酷い作品だと思いますが、秋山は認めますよ。
……と言うと、上から目線な感じがしますね。ここの描かれているせかいは、悪趣味極まりなく、生理的に受け付けませんし、絶対に好きではないですが、この無理な物語をここまで構築させたことや、細部に光る技巧*1が素晴らしく卓越していて、認めざるをえない! 悔しいけど!! という感じです。
*1:第2話の最後のページの真っ白な空や、第6話の「ぎゅうーぅ」など。