雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

2012年第4四半期オススメ10冊

 なんか、もう年、明けちゃってますし、第4四半期って、なんだか奇妙な字面ですし、どうなのかしらと思わないでもないですが、さっき買い物に出掛けて歩いていたら、やる気が首をもたげたので、3ヶ月に1回の振り返りを行います。
 と言うわけで、10月から12月にかけて読んだ本のうち、面白かった10冊を紹介します。例のごとく、つまろうとつまるまいと、読んだのがこの時期であるというだけで、既刊も含みますしおすし。

まえがき

 ノリノリで書き始めたのですが、何作かは年間ベストと重複するので、底辺を蛇行するテンションで参ります。

アルバトロスは羽ばたかない

アルバトロスは羽ばたかない

アルバトロスは羽ばたかない

 七海学園シリーズ第2弾。
 たった一行で世界観を崩壊させ、瞬時に再構築させる、傑作ミステリ。

恥知らずのパープルヘイズ

恥知らずのパープルヘイズ ?ジョジョの奇妙な冒険より?

恥知らずのパープルヘイズ ?ジョジョの奇妙な冒険より?

 ジョジョファン第一人者たる上遠野浩平による、ジョジョの奇妙な冒険第5部の後日談。
 全荒木飛呂彦ファン、全上遠野浩平ファン、必読の一冊。

秘曲 笑傲江湖

秘曲 笑傲江湖〈7〉鴛鴦の譜 (徳間文庫)

秘曲 笑傲江湖〈7〉鴛鴦の譜 (徳間文庫)

 中国の大人気作家、金庸による傑作武侠小説
 確かに大陸を熱狂させるエンターテインメントは、激烈に面白かった。

ラピスラズリ

ラピスラズリ (ちくま文庫)

ラピスラズリ (ちくま文庫)

 端正な文体と上質の世界観による、四季の物語。
 実に美しく、実に儚く、実に物語めいた物語。

演じられたタイムトラベル

『扉の外』でデビューして以来、閉鎖空間に閉じ込められた主人公たちが、互いに互いを殺しあうようなゲームに身を投じることになる作品を書き続けている土橋真二郎の最新作。
 今回は、脱出ゲームを題材としているらしく、制限時間内にゾンビが渦巻くデパートからの脱出がゲームの骨子となっている。本書の素晴らしいところを3つ挙げたい。1つは1冊で完結していること、1つは脱出ゲーム的で面白いこと、1つは……タイムトラベルを擬似的に再現していること。
 最後のひとつを、もう少し詳細に説明させてください。主人公たちは「ゲーム」が始まると、午後15時にデパートの1階に閉じ込められています。彼らには過去のカードが与えられており、そのカードを「使用」することで、そのカードに記載されている「過去」に「タイムトラベル」することができるのです。そうして、13時だとか14時に「タイムトラベル」した彼らは「過去」において脱出に必要な「鍵」を集め、やがて現在たる15時に戻ってくるや否や、わざとらしく、こう言うのです──「すまん、皆。彼女を助ける鍵なら、さっき拾ってた」と。
 語句選択はチープながら、真に迫る恐怖と、時間を往き来するという物語の構成自体が、非常に面白い一作でした。

独創短編シリーズ 野粼まど劇場

 絵を多用した実験小説の掌編集。この手の、遊び心と試みに満ち溢れた作品集は、好むところなので、是非、電撃が擁する他の意欲的な作家……成田良悟うえお久光時雨沢恵一にも機会を与えて頂きたい所存。
 そう言えば、この間、一緒に飲んでいた方が『野崎まど劇場』をして「こういう作品は初めて読んだので衝撃です」と言って、なんだか微笑ましくなってしまいました。そんな方には、とりあえず筒井康隆残像に口紅を』と浅暮三文『実験小説ぬ 傑作短編集』を勧めたい所存。

悪魔が来たりて笛を吹く

 横溝正史は大好きな作家ですが、もう現世では新作を読むことが叶わないので、なるべく時間を掛けて読むようにしています。本書も、そう思って積んでいた一作でしたが、以前にネタバレを受けてしまったので「そろそろ読むか」と思って着手しました。
 面白かった……! です。しかも、驚くべきことに、ネタバレを受けたことによる弊害が、まったくなかったです。と言うか、むしろ、完全にミスリードされました。真に素晴らしい作品は、ネタバレを受けたとしても一切、色褪せることがない。むしろ、色眼鏡を掛けて読むと返って惑わせられる。という言葉を、改めて思い出した次第。

俺、南進して

俺、南進して。 (角川文庫)

俺、南進して。 (角川文庫)

 ディスコミュニケーションの第一人者たる町田康と、鬼才、荒木経惟の二人が巡り合ったように見せかけてすれ違いつつも、ふたりが去った後には、町田康による場景と荒木経惟による小説が残っているという、もう何が何だかわけの分からない、しかし紛れもない小説……でした。
 町田康の作品の中では、けっこう珍しい文体であるようにも思うのですが、むしろ、こっちの方がリズム的には好みかもしれない。にょほほほほほ。

セックスの哀しみ

 バリー・ユアグローと言えば、新潮文庫からも出ている柴田元幸訳による『一人の男が飛行機から飛び降りる』が最も有名と思われる。奇想天外なる設定を下地にした奇妙奇天烈なる物語を、しかし圧倒的なまでのリアリティで以って、さらりと描いてしまっている超短編作家だ。
 本書『セックスの哀しみ』は、女や性といったものを題材とした超短編を集めた作品集。全体的には、なんか、こう残念なものが多く、読後に「残念な男だなあ、こいつは。しかし、何故だろう。この胸の底にある共感……のようなものは」という不思議な感覚を残します。良い作品集でしたが、ユアグロー未読の方は、まず『一人の男が飛行機から飛び降りる』から読んで頂きたい。

空耳の森

空耳の森 (ミステリ・フロンティア)

空耳の森 (ミステリ・フロンティア)

 最後は、ミステリ・フロンティアの1作、七河迦南の第3作『空耳の森』。
 七河迦南の作品は第1作も第2作も、終盤の解決編において、敷きまくっていた伏線を鬼のように回収しまくる親切心に溢れた作品だったのが、この第3作においては、その努力を放棄したのか「ぽーんっ」と放り投げています。
 読書会を企画したこともあって、3回ほど読み直したのですが、読み直すたびに、全編に仕込まれた職人的な伏線の数々に惚れ惚れしました。秋山がいちばん好きなのは「晴れたらいいな、あるいは九時だと遅すぎる(かもしれない)」の最後のシーン。自分の名前を呼ばれたと思って、ビールを倒してしまう友達かわいい。

終わりに

 とりあえず四半期ベストは以上。
 これから年間ベストに着手します。引き続きお楽しみください。