雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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2012年に読んだ面白かった本ベスト10

 まあ、1月6日なんて、依然として四捨五入2012年の範疇であろ。
 む。6月末まで四捨五入2012年として、7月1日から四捨五入2014年としたら、2013年は何処に行ったのだろうか。まあ、年末になれば忘年会を経て、なかったことになるから、そもそも生まれてこの方、一年たりとも四捨五入と忘年会の果てに吸い込まれ、消えてなくなってしまっているけれども。
 例のごとく2012年に読んだということで、既刊を含みます。

アルバトロスは羽ばたかない

アルバトロスは羽ばたかない

アルバトロスは羽ばたかない

 悩んだのですが、2012年のベストは、七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』だったと思います。
 出来れば、やっぱり2012年の新刊を真っ先に紹介したかったのですが傑作『アルバトロスは羽ばたかない』の前では、膝を屈せざるを得ませんでした。と言うわけで、七河迦南による、七海学園シリーズの第2弾。前作『七つの海を照らす星』同様、創元推理的な連作短編の様相を呈しており、最後まで読み終えることによって物語が、その真の姿を現すというスタイルなのですが、この作品において現出する真相は、想像を越えた遥か先にありました。
 新本格ミステリが好きで、やっぱり綾辻行人法月綸太郎麻耶雄嵩あたりは外せない作家なのですが、本書に秘められた衝撃は『十角館の殺人』や『夏と冬の奏鳴曲』に匹敵するようにも思います。

メルカトルかく語りき

メルカトルかく語りき (講談社ノベルス)

メルカトルかく語りき (講談社ノベルス)

 先ほど、新本格ミステリのくだりで、自分が、いちばん好きな新本格ミステリ作家は、誰であろうかと考えたのですが、新本格という観点では、麻耶雄嵩が、いちばん、いちばん好きかもしれません。1993年の大傑作『夏と冬の奏鳴曲』はもちろん、1999年の『鴉』、2004年の『名探偵 木更津悠也』と時を経ても色褪せることがないのは素晴らしいことです。近年は『貴族探偵』に『隻眼の少女』と、個人的には、やや残念感がありましたが、本書『メルカトルかく語りき』を読んで、麻耶雄嵩は、やはり素晴らしいという想いを強くしました。
「死人を起こす」「九州旅行」「収束」「答えのない絵本」という、挑戦的に過ぎる各短編は勿論、ボーナストラックと考えるべき「密室荘」まで含めて、どの作品も、ただの短編に収まらない、新本格ミステリ史に残りうる傑作でした。
 よく短編集をして「どの作品も面白かった」という平易な表現がありますが、本書は、その中でも群を抜いていますね。「死人を起こす」の不可解性、「九州旅行」のタイトルの嫌らしさ、「収束」の収束っぷり、「答えのない絵本」の究極性、「密室荘」の愛。すべてが……すべてが完璧です。こうして考えていって、麻耶雄嵩の素晴らしさを再認識したので、次回は積まないことにしますね。

儚い羊たちの祝宴

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

 短編集でミステリという流れを汲んで、もう1冊。米澤穂信の『儚い羊たちの祝宴』。
 こちらは文庫が2011年ですが、ハードカバー版は、2008年と、さらに積んでいた期間が長く、ちょっと気が引けるのですが、ええ、傑作でしたとも。と言うか、個人的に米澤穂信のベストかもしれません。
 上流階級のお嬢様と一族が住むお館という、俗世から隔絶された空間によって繰り広げられる、繁栄、虚栄、復讐、没落、滅亡……! すべてが狂おしく美しく、ああ、滅びゆくものの、なんて哀れなることよと快感でした。

草祭

草祭 (新潮文庫)

草祭 (新潮文庫)

儚い羊たちの祝宴』同様に、積んだ期間を嘆くほどに面白かったのが恒川光太郎『草祭』です。と言うか、恒川光太郎は『夜市』を読んだときに、その奇妙な和の雰囲気と、近づいたら食われると警戒心を抱かせるほどの気持ちよさを知っていながら、どうして、今まで積むことが出来ていたのかが分かりません。
 今までの恒川光太郎ベストは『秋の牢獄』でしたが、申し訳ない、やっぱり『草祭』です! 何故って、これは救済の話だったからです。
 美奥という謎の土地を舞台に、入れ替わり立ち替わり現れる主人公たちは、皆一様に、なんらかの罪を抱えていて、それを隠して生きています。しかし、ある拍子に、それが露見してしまい、罰を受けたり、償ったり、許しを与えられたりします。
 どの作品も捨てがたいですが、いちばんは「天化の宿」かな。良い短編集でした。

ラピスラズリ

ラピスラズリ (ちくま文庫)

ラピスラズリ (ちくま文庫)

 美しい短編集が『儚い羊たちの祝宴』『草祭』と続いたので、引き続き山尾悠子ラピスラズリ』も紹介させてください。と言うか、今さら本読み初心者たる秋山が紹介するまでもない、知る人ぞ知る山尾悠子の連作短編です。発売日が2012年1月とある通り、最近、復刊されました。
 山尾悠子を読むのは久方ぶりでしたが、相変わらず鳥肌が立つほど端正な文体と、卓越した描写力でした。終盤は、わりと怒涛の展開で「え、え〜」と思ったりしましたが、終わってみると、完璧なる四季の小説で、その人知を超越した美しさに眩暈を覚えました。これからも、こういう小説を愛せる本読みでいたいものですね。

悲鳴伝

悲鳴伝 (講談社ノベルス)

悲鳴伝 (講談社ノベルス)

 西尾維新のノンシリーズ『悲鳴伝』はですね、やはり、しっかりと記事にして書いておくべき作品でしたね。少し後悔。
 読んでいる最中は激烈に面白かったですよ。これは素晴らしいエンターテインメントだと思いました。だって、想像の斜め上をゆく展開の連続なんですもの。しかも、東日本大震災を始め、様々な社会現象や問題を意欲的に取り入れた、まさにてんこ盛りのような作品で、読んでいる最中は「ううむ、西尾維新だからと侮っていたが、これは中々に、奥の深い作品だぞ」と腕組みしたりしました。
 が!
……ですが!
 読了後の感想はなかったのです。ちょっと、この表現は西尾維新が好きすぎて困り者ですが、なかったのだからしょうがない。よろしいですか? 通常、良い作品を読み終えた後は「ああ、良かったなあ」と余韻に浸ったり、誰かと感想を共有したくなるものです。ですが、この作品においては、それが完膚なきまでになかったのです。読み終えた直後、秋山は、なんの不都合もなく、シームレスに日常に戻ってしまったのです。敢えて言うなら「あ、空っぽの小説だったな」くらいでしょうか。
 読んでいる最中は、あんなに興奮して、あんなに色々と考え込んだと言うのに、読み終えた後には何も残らない……これは、逆説的に、すごい小説ですよ! そのことに、しかし、何も残らなさ過ぎて、読了後は気づくことができませんでした。
 こうして言葉にすると、やはり『悲鳴伝』はすごい作品でしたね。読んでいる最中は最高に面白いけれど、読み終えた後には、何も残さない。これは人生観を揺さぶる究極のエンターテインメントかもしれませんね。なんか続きが出るらしいので、この想いは、しばらく封印しておこう。

2

2 (メディアワークス文庫)

2 (メディアワークス文庫)

悲鳴伝』という怪作について書いたならば、もう1冊の怪作『2』についても言及せねばならないでしょう……。
『アムリタ』でデビューした野崎まどは、最後の一撃を得手とする作家で、中々に面白い作家です。前半から中盤に至っては、面白い登場人物が、面白おかしく会話する、ほのぼのとした作品で、終盤から最後の一行に至って、想像を絶する大どんでん返しが仕掛けられています。野崎まどファンは、大なり小なり、どんでん返しっぷりを好んでいるように思います。
 それで『2』ですが、これは、うーん、やっぱり紹介が難しいですね。
 とりあえず『2』というタイトルから、その怪作っぷりは窺い知れると思うので、興味を持った方は『アムリタ』から順に読んでみてください。『アムリタ』が今ひとつだった方は、多分、きついと思うので、無理しなくとも構いません。そんな感じで。

恥知らずのパープルヘイズ

恥知らずのパープルヘイズ ?ジョジョの奇妙な冒険より?

恥知らずのパープルヘイズ ?ジョジョの奇妙な冒険より?

『2』同様に適性が求められるという観点で、ちょっと下の方になってしまいましたが、上遠野浩平『恥知らずのパープルヘイズ』は良い作品でした。
 上遠野浩平ブギーポップは笑わない』に出会ったことは、秋山の学生時代における特筆すべきポイントのひとつだったかもしれませんね。それからずっと上遠野浩平の作品を追い、そこから派生するように荒木飛呂彦ジョジョの奇妙な冒険』に出会い、人間賛歌という概念に打ち震えるような感動を覚えたりしました。
『恥知らずのパープルヘイズ』という作品は、ジョジョ大好き作家である上遠野浩平が、『ジョジョの奇妙な冒険』第5部の後日談として描いたものです。上遠野浩平分と荒木飛呂彦分が、ちょうど良いバランスで入っており、完成度が極めて高かったです。
ジョジョの奇妙な冒険』で、いちばん人気が高いのは第4部でしょうか。仙台を舞台に、登場人物も日本人で馴染み深い上、スタンドバトルも、単に力技に頼らない面白いものが多いです。他に人気なのは、初めてスタンドが登場し、ジョジョDIOという宿命の対決が描かれた第3部も人気ですね。第1部と第2部も、それぞれファンが多そうです。逆に、人気が低いのは第5部と第6部でしょうか。秋山が、いちばん好きなのは第5部なので、少々かなしいです。
 第5部が好きな理由は、主人公たるジョルノ・ジョバァーナが、覚悟を持って戦闘へと身を投じているからです。なんか戦いを挑まれたから戦っている巻き込まれ型とは異なり、自らの夢を自らの手で叶えるために、戦っていくジョルノが好きです。しかし、第5部は、どうも瑕疵が多いようにも感じていました。登場人物の心理が十二分に描けていないような気もすれば、終盤は、やや駆け足です。そんなところが人気に繋がっているのかもしれません。
 そういう思いがあったからでしょうか、本書『恥知らずのパープルヘイズ』は、泣きたくなるほど良い作品でした。後日談の体を装いつつ、本編の穴を塞ぎ、むしろ完成度を高めてゆくのが素晴らしかったです。ナランチャの「えっ」というような行動も、フーゴが途中で戦線を離脱したことも、すべて意味がありました。荒木飛呂彦が残した想像の余地を、上遠野浩平が肉付けすることによって、第5部は真の完成を見たように思います。
 ちょっと想いが強すぎて長くなりましたが、傑作でした。

星を撃ち落とす

星を撃ち落とす (ミステリ・フロンティア)

星を撃ち落とす (ミステリ・フロンティア)

 気を取り直して友桐夏『星を撃ち落とす』です。
 これは本編の美しさ、素晴らしさもさることながら、刊行されたことそれ自体が喜ばしいですね。あるレーベルで登場し、ネット上ではコアな人気を誇りつつ、しかし続くことが出来なかった作家が、他のレーベルで再登場を果たすことに成功する。そういうのって何だか嬉しいですね。
 本編についてですが、やはり少女たちの描き方が良いですね。幾つもの仮面を被り、章を経るごとに、その仮面が落ちて、下からほんとうの顔が見えて、思わず鳥肌が立つような。桜庭一樹が大好きだった頃の自分を思い出したりしました。

秘曲 笑傲江湖

秘曲 笑傲江湖〈1〉殺戮の序曲 金庸武侠小説集 (徳間文庫)

秘曲 笑傲江湖〈1〉殺戮の序曲 金庸武侠小説集 (徳間文庫)

 最後は中国の大作家、金庸による傑作武侠小説『秘曲 笑傲江湖』!!
悲鳴伝』が、なんか変な方向に突き抜けた結果としての究極のエンターテインメントとするなら、『笑傲江湖』は読者を楽しませることを突き詰めた結果としての完璧なエンターテインメントでしょうか。
 とにかく起伏が豊かなんですよね。これでもか! これでもか! と言わんばかりに悲劇を叩きつけられ、もうこれ以上はどうしようもないだろうというタイミングで、颯爽と快漢が現れ、快刀乱麻を断つが如く、万事を解決したところに、それまでの事象を大きく覆す絶望が現れるような……。全編に渡り「え、どうなるの?」の連続で、息を忘れて読み進めたり、ちょっと落ち着いてのんびり出来たと思ったら、また予想もつかない方向から危機が訪れて、とにかく楽しい読書体験でした。異能バトル、ツンデレ、俺TUEEEEの源流にもなっているように思います。全7巻ですが、あまり難しいことは考えず、ライトノベルを読む感覚で1巻だけ読んでみて欲しいですね。

おわりに

 昨年に読んだ本は、ぴったり80冊でした。冊数は少ないですが、記憶に残る傑作を、何作も読むことができて幸せです。
 今年も数多くの面白い本に出会えますように。