雲上四季

本と涙と謎解きと、愛しさと切なさとボードゲームと

北山猛邦の話|物理と幻想、相反する魅力の持ち主

 物理の北山。物理トリックの名手である北山猛邦がこのように呼ばれだしたのは、たしか『ファウスト Vol.4』において太田克史が呼び始めて以来だと記憶しています。
 と言うわけで、id:shamrock4さんが北山猛邦のデビュー作『『クロック城』殺人事件』の文庫化を記念して、文庫版が発売されるので北山猛邦特集!というエントリを書かれていたので、秋山もこれに便乗して北山猛邦の魅力を紹介したいと思います。

『クロック城』殺人事件 (講談社文庫)

『クロック城』殺人事件 (講談社文庫)

著作一覧

・『クロック城』殺人事件
・『瑠璃城』殺人事件
・『アリス・ミラー城』殺人事件
・『ギロチン城』殺人事件
・アルファベット荘事件
・少年検閲官

 デビュー作は『『クロック城』殺人事件』、第24回メフィスト賞受賞作です。が、実際に執筆されたのは『アルファベット荘事件』の方が先なので、執筆された順に読んでみたいと思っている方はご注意ください。
 講談社ノベルスから刊行されている作品には、城の名前がタイトルに冠されているので城シリーズと呼ばれていますが、ストーリーやキャラクタの繋がりはなく、同一の世界を舞台としているだけで、どこから読み始めても問題ありません。個人的には最新刊の『少年検閲官』がやはり現時点では最高の完成度を誇っているので、ここから読み始めるのが最良と思います。……とは言え、どれか1冊でも読んでいただければその魅力に打ちのめされ、著作すべてを揃えざるを得ないので『クロック城』から入っていただいても構いません*1

幻想性という魅力

 独自の終末観、もしくはロマンと言い換えてもいいかもしれませんね。
 北山猛邦の作品には共通して、ふしぎな終末観が漂っています。これは特に『クロック城』において顕著なのですが、明日にでも世界が滅びてなくなってしまいそうという儚さがあるのです。さらにこれに「明日、世界が終わるとしたら、今日、あなたは何をしますか?」という問いに「世界が終わるまできみを抱きしめていたい」と真顔で返してくるようなロマンティックさが溢れかえっていて、この詩的さに辟易することなく赤面するようなひとは相性ばっちりと言えるでしょう。

少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)

少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)

 この雰囲気は『少年検閲官』の表紙には、よく現われています。ほんとう、絵にするというこういう淡い感じなのです。それなのに講談社文庫版の『クロック城』ときたら、まったくもう……。

物理トリックという魅力

 米澤穂信西尾維新道尾秀介佐藤友哉桜庭一樹などと併せて語られることの多い北山猛邦ですが、その根幹にあるのは島田荘司直系の物理トリックで、そういう意味ではむしろ霧舎巧にこそ近いのではないかと思います。
 物理トリックとは何ぞやという方に、かんたんに説明すると、要は仕掛けのことです。たとえばレコードプレイヤーに糸の一端を貼り付けておいて、もう一端を扉の鍵にくっつけたりして、プレイヤーを起動させて時間が来たら鍵が自動的に閉まる……というような形而下的なトリックが物理トリックと呼ばれます。とは言え、現実的な物理トリックほど、実際には地味なことが多いので、ミステリファンの間では、より奇想天外で現実には実行不可能なのではないかとさえ思え、ともすればバカミスの謗りを受けかねないほど壮大なものの方が評価される傾向にあります。

『瑠璃城』殺人事件 (講談社ノベルス)

『瑠璃城』殺人事件 (講談社ノベルス)

 北山作品の中では『瑠璃城』が最も派手な物理トリックを用いていると思います*2

これからの作家であるという魅力

 まあ、でも、なんだかんだ言ってファンに応援させたいと思わせる、北山猛邦の最大の魅力はこれからの作家であることかもしれませんね。
 西尾維新ライトノベル層を中心に絶大な人気を有し、道尾秀介が第7回本格ミステリ大賞を受賞し、桜庭一樹が第60回日本推理作家協会賞を受賞し、佐藤友哉が第20回三島由紀夫賞を受賞した今、米澤穂信北山猛邦に対する期待は高まる一方です。
 このミス、本ミス、文春ミス、読みたい、本ミス大賞のなかで『少年検閲官』がどれだけ健闘できるか。要注目! です。
 最後に、以前に書いた『少年検閲官』の書評を紹介します。

 著者の北山猛邦は「物理の北山」と呼ばれるぐらい物理トリックに長じたミステリ作家だ。この作品も彼らしく、ちょっと設定に無理があるのではないだろうかという世界で、ちょっと実行は無理なんじゃないだろうかというトリックが使われている。たとえば森の中の小屋に首のない死体があって、その小屋から出て三歩ばかり歩いて振り向くと死体を残して小屋だけが消失しているだとか、森の奥で触れた壁がまぎれもなく室内の壁で、村全体が巨大な部屋の中にあるといった謎に対する答えが(中略)だったなんて。思わず、あんまりだとむせび泣きたくならなくもないが、トリックが明かされるときには、すっかり著者のミステリや物理トリックへの愛に毒されているので、そういう突っ込みがとても無粋なものに思えたりもする。そういうことにしておこう。ビバ! 物理トリック!

http://magazine.kairou.com/10/review/syounen.html

*1:結局、どっちなんだ。

*2:短編を含めていいのなら「廃線上のアリア」がいちばん。