雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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日常に潜む怪異と現実に存在する幻想

 探偵小説研究会編著『CRITICA』のVol.3を買いました。
『CRITICA』は今のところ毎号、買い求めさせていただいていますが、感想を書くのは初めてかもしれません。今回はid:tsurubaさんに、秋山の、千街晶之「日常と幻想のグレーゾーン」の感想が読みたいと言われたので、ちょっと書いてみようと思います。

日常と幻想のグレーゾーン

 端的に言って、大変、興味深い内容でした。
 日常の謎、幻想ミステリ、怪奇幻想、怪談、叙述といったサブジャンルに、認識論的な切り口から挑んでおり、諸々なるほどと思った次第。特に幻想ミステリのくだりは、手前みそで大変恐縮ですが、「幻想ミステリとしてのトリックスターズ」を書いたことのある秋山にとっては、実に身近かつ、関心を抱いている問題でした。
 全体的に納得のできる内容だったのですが、一点だけ首を傾げた箇所がありました。以下に引用させていただきます。

 裏社会情報と怪談の親和性──それは、平山夢明が『「超」怖い話』のような実話怪談系のシリーズと、『東京伝説』のような超常的要素の薄い犯罪系のシリーズとを並行して執筆し続け、それらが共通する読者層から受容されていることからも窺えるのではないか。
(73ページ下段より)

 確かに過半数の読者は『「超」怖い話』と『東京伝説』の間に、これといった区別を設けずに読んでいるでしょう。しかし、それは別段「実話怪談系のシリーズ」と「超常的要素の薄い犯罪系のシリーズ」の両方が好きなのだからではなく、両方を一緒くたに、たとえば「怖い話」のような枠に閉じ込めてしまい、「怖い話」として読んでいるように感じます。もしくは、ただ単に平山夢明という一作家が筆力とファンを惹きつけるちからのある作家で、読者のハートをがっしりと掴んでいるだけという可能性もあります。
 いずれにせよ、「共通する読者層から受容されていること」から異なるふたつのジャンルの親和性が高いという結論を引き出すのは、牽強付会に過ぎるように感じられました。その論法が許されるならば、ジャンルに固執しない本読みがいる限り、あらゆるジャンルは、それ以外の全てのジャンルと親和性が高いことになってしまいます。
 とまれ、こんなのは重箱の隅を突くような行為であり、逆に言えば、こんなところしか突く箇所がなかったぐらい完成度の高い、もしくは秋山視点で完成度が高いように見えた評論でした。

その他

 最後まで読み終え、いちばん強く印象に残っているのは「日常と幻想のグレーゾーン」でしたが、それ以外に良かったなと感じたのは、鷹城宏「錯視/策士(trick/ster)──道尾秀介論」羽住典子「叙述トリック戯言」です。
 前者はタイトルからも分かる通り道尾秀介論で、特に、道尾作品に見られる視覚的情報の混乱に焦点が当てられていました。特に『向日葵の咲かない夏』について論じているくだりは、新鮮な意見が覚え、先日、文庫化されましたし再読してみようかなと感じました。
 後者は脚本家の野島伸司に焦点を当てており、野島伸司が脚本を手掛けたテレビドラマに観られる叙述トリックを取り上げていました。ドラマを観る習慣のない秋山でしたが、この評論は読んでいるうちに、まるで毎週そのドラマを観ていたような気分になり、筆者の羽住典子が驚きを覚えたであろう箇所に、同じく衝撃を受けてしまいました。次に野島伸司が関わるテレビドラマは観てみようと思いました。

最後に

 今号も充実の誌面でした。
 次号は是非、佳多山大地の小説作品と笹川吉晴の評論作品が読みたいことを、ここでそれとなく表明してみます。

最後の最後に

 そう言えば『ニアミステリのすすめ』の感想を書いていなかったことを思い出しました。これも近いうちに。

追記

 読み返してみたけれど、もしかして全然、つるばさんが期待しているような感想じゃないかも。