はじめに断っておきますと、これは自説ではありません。某氏(としておきます)が以前におっしゃっていた考えおよび、それを秋山なりに捉えなおしたものです。
やっぱり前例があったみたい。ごめん。
http://d.hatena.ne.jp/trivial/20051215
電撃文庫でミステリ・スピリッツ溢れた作品を上梓している作家がいます。その名は久住四季、『トリックスターズ』が代表作です。そのシリーズの2作目『トリックスターズL』の序盤には、ちょっと目を剥くような驚きのトリックが使われています。ネタバレになりかねないので明言は避けますが、1作目を読み終えている読者であれば自明の情報が伏せられており、文字通り意味のない叙述トリックという様相を呈しているのです。
[rakuten:book:11544977:detail]
初めてこの作品に触れたとき、秋山は森博嗣のVシリーズに似ているなと感じました。実はVシリーズの3作目『月は幽咽のデバイス』においても同系統のトリックが使われているのです。1作目の『黒猫の三角』を読み終えている読者にとっては、効果を発揮しないトリックが『月は幽咽のデバイス』では隠されているのです。しかも、その隠蔽は極めて巧妙で、流し読みしていたら、そういったトリックが隠されていることにはまず間違いなく気づけないでしょう(あまりに自然なので)。
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/03/14
- メディア: 文庫
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以上のようなことを考えつつ、某氏に『トリックスターズL』で使われているトリックについてお話してみたら、実に画期的かつ論理的な理由を教えていただきました。
「『トリックスターズ』は1巻しか読んでいないから、あまり不用意なことは言えないけれど、ぼくが思うに、久住四季はミステリに不慣れなライトノベル読者に、叙述トリックを見破る悦楽を教えてあげたんじゃないかな。だって通常は、再読時にしか作者が敷いた伏線や言葉選びは味わえないだろう。それを初読時に味わうには事前に答えを教えてもらうしかないじゃないか」*2
聞いた瞬間、思わず膝を打ちました。
考えてみれば久住四季は、シリーズの他の作品においてもミステリ初心者のために、丁寧に謎を説明したり、トリックを分かりやすく解説してくれています。そういったスタンスの持ち主ならば、確かに叙述トリックを看破する悦びを、読者に教えるために意味のない叙述トリックを使うことも納得です。
と言うわけで、久住四季の意味のない叙述トリックと、西尾維新の意味のない叙述トリックは、同種のものではあると思いますが、その方向性は明らかに異なるというのが秋山の見解です。