雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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BLUE BLUE CELESTIAL DOOR

 その扉は二年ほど前に見つけた。
 それはまだ、私が後片付けをするのが不得意だったころ。私は昼間に遊んだ人形やご本を、元の場所に戻すということをしなくて、私の部屋はたいへん雑然としていた。ある朝、私が目覚めるとベッドの周りは、きれいになっていた。人形もご本も、お気に入りのお洋服も、友達から借りていたジグソーパズルも、何もかもがなくなっていた。何処に行ったのかが気になってお母さまに尋ねてみたら、お母さまは「棄ててしまったわ」と小さな声で教えてくださった。「棄ててしまう」というのが、どういうことなのかは、判らなかったけれど、失ってしまったものはもう戻ってこないのだと漠然と思い、私は悲しくなって涙を流した。
 止まらない涙を拭いている私の前に扉が姿を現した。取っ手を引いてみると、向こう側には何もなくて、私は試しにゴミ箱の中に入っていた落書き帳を入れてみた。落書き帳は扉の向こうに消えて、私の部屋からなくなった。嬉しかった。この扉の向こう側に隠しておけば、もうお母さまが私の大切なものを「棄ててしまう」ことはない。私は喜んで、周りにあったものをどんどん、扉の向こうに仕舞っていった。
 そして二年、いつの間にか見当たらなくなっていた扉が、再び私の前に姿を現した。あれからお母さまが、何かを「棄ててしまう」ことはなかった。私はかつてこの扉の向こうに隠した色々な大切なものを取り戻そうと、取っ手を引いて、向こう側に手を伸ばした。けれど、指先に触れるものはなく、仕方なく私は肩まで扉の中に入れて、手を伸ばした。それでもやっぱり何もなく、私は思いきって上半身を扉の中に入れて、思いっきり手を伸ばした。
――ずるっ。
 あ、と思ったときにはもう遅くて、私の全身は扉の向こう側にあった。急いで扉を掴もうと手を振り回したけれど、扉なんて何処にも見えなくて、ただ、私の耳にそれが閉ざす音が聞こえた。
 バタン。


『時の狭間』798文字